秋山黄色の原点
「やさぐれカイドー」は秋山黄色のアルバム「From DROPOUT」の始まりを飾る曲です。
まさに秋山黄色のメジャーシーンでの方向性を印象づけるような一曲。
印象的でキレのいいギターリフから紡ぎ出されるロックサウンドが印象的です。
その歌詞は難解で、どこかネガティブな印象を感じさせるもの。
決して明るくはない、自分の世界を深く突き詰めるような秋山黄色サウンド…。
その方向性を強烈に刻みつける、世界観を全面に押し出した一曲となっています。
独自の世界観あふれる一曲
友達と遊ぶために作った曲
秋山黄色はインタビューで、「友達とバンドをやって遊ぶために作った曲」だと語っています。
しかしギターリフやテクニック、ハードな印象のメロディラインが記憶に残ります。
そういった曲優先で作ったため、歌詞は後からつけたものとのこと。
タイトルの「やさぐれカイドー」は、自身がバイト帰りでやさぐれていたからだと説明しています。
しかしタイアップやメッセージを優先していないからこそ、より個性的なサウンドが感じられる一作。
言葉の端々から、秋山黄色自身の独特な感性が感じられる歌詞となっています。
難解な言葉に隠された心理とは?
「やさぐれカイドー」はMVも公開されています。
独特の言葉を紡いだ歌詞がリリックビデオのように表示されていくMV。
後半では文字が反転したりいくつも表示されて、不安定な世界観を視覚からも伝えています。
不安感やネガティブ、そして諦めにも似た退屈感と高揚感。
まさに「やさぐれ」た感情を音に乗せる、秋山黄色の魅力が発揮された作品です。
そんな歌詞をひとつづつ解釈していきます。
夜中の2時に思うこと
身体も心も空っぽ
呆然、夜中の2時過ぎてやっと俺だ
ああ 何は無くとも誰もいない
思いのほか腹も減っていない
出典: やさぐれカイドー/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
夜中の2時。
こう語る「俺」はどういった状況にあるのでしょうか。
秋山黄色自身は、この歌を書いたときに「アルバイトから帰る途中」だったと語っています。
そこから考えると、この「俺」もアルバイト帰りなのかもしれません。
夜中の2時、遅い時間まで仕事に追われる「俺」。
帰ってくる途中やっと自分の意思を取り戻したような思いが感じられます。
「やさぐれカイドー」というタイトルやMVで道沿いを歩いていること。
そこから考えて、「俺」は仕事帰りに道沿いを歩いているところなのでしょう。
夜中の道には誰もおらず、仕事終わりの「俺」は空腹も感じていない。
ただなにもない空虚感が伝わってきます。
思うのは誰のこと?
で、やたらセンチアホらしい頭ん中
どうせ伝えらんないし気分いいんだ
だから真面目な話はほんとやめてくれ
出典: やさぐれカイドー/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
歩きながら、「俺」が思うのはセンチでアホらしいことだと考えます。
伝えられないと思いながら、その時間や考えは心地の良いものなのでしょう。
ここで「俺」が考えを伝えたいと思うのは誰なのでしょうか。
元々友達と遊ぶために作ったと語るこの歌。
そこから考えると、「俺」が思い立ったことを伝えたいと思うのも友人なのかもしれません。
仕事を終えて疲れた気持ちのまま歩き、感傷的な思いつきやアイデアを誰かに話したいと思う。
けれどここには誰もおらず、家に帰って改めて考えれば伝えるほどでもない。
だから今は歩きながら空想に耽るのです。
そして、やめてくれと相手を拒むような言葉。
これは、やさぐれカイドーという曲がアルバムの最初の曲であったことも関連しているのでしょう。
ここから世に出るアーティストとしての自分。
社会的な良し悪しや大人の判断する芸術性、そういった真面目な話は聞きたくない。
変な理屈をつけずに自分の音楽を聞いてくれ、そんな強いメッセージが感じられます。