夢のタッグ
忌野清志郎と坂本龍一
「い・け・な・い ルージュマジック」は1982年に発表された曲です。
忌野清志郎といえば日本一のライブ・バンドといわれたRCサクセションのフロントマン。
RCといえばR&Bを基調としたロックと清志郎の個性的な歌い方が特徴的。
彼のグラムロック風のメイクと独特なステージ衣装やパフォーマンスも印象的でした。
そしてテクノ・ポップで世界的人気を誇ったYMOの坂本龍一。
YMOは人民服風のコスチュームにテクノカット。
そして東京芸大出身の坂本のニックネームは「教授」です。
かたやバリバリのロックバンド、かたや先鋭的で知性的、洗練されたテクノユニット。
まったく方向性の異なる二人のユニットは当時大きな話題となりました。
キャンペーンソング
このユニットは化粧品会社の宣伝部の発案から実現。そこがそれぞれにオファーを出したそうです。
曲のタイトルも宣伝部からの指定。ただし、2人が後から若干変更し、このタイトルになっています。
当時はCMソングといえばその商品やキャンペーンのコピーをサビに織り込んだ歌詞が少なくない時代。
曲によってはCM用にコピーが織り込まれたサビだけを先に作ったりもしていました。
キャッチコピーはポスターなどの印刷物や販促グッズなどにも使われるため、変更は大変なことです。
それだけ二人が大物だったということでしょう。
い・け・な・いルージュマジック
演奏にはRCサクセションのリードギターのチャボこと仲井戸麗市も参加。
忌野清志郎の歌い方が個性的なこともあり、第一印象は全体に彼の色が強く感じられます。
坂本龍一はその個性を活かしつつ、巧みなアレンジでPOPで洗練された曲に仕上げています。
また2人の出演したプロモーションビデオも話題になりました。
体中に電飾をつけ、人気のない夜の街を走り抜けたり、屋上から紙幣をばら撒いたり、キスシーンもありました。
歌詞ともほとんど関連がないですし、化粧品のCMソングとは思えないPV演出です。
ちなみに曲はオリコン週間第1位、年間20位を獲得しています。
歌詞
口紅魔法
君がいなけりゃ 夜は暗い
春の陽ざしの中も とてもクライ
出典: い・け・な・いルージュマジック/作詞・作曲:忌野清志郎+坂本龍一
ラブソングです。一行目、「君がいれば夜でも明るい」というのが普通でしょう。
敢えてひねった表現で聞き手を引き込んでいます。
2行目のクライは泣く、叫ぶのCryと掛けています。叫ぶような歌い方も印象的です。
こちらはよくある表現のように見せてダブルミーニングを仕掛けているのです。
こういった詩のセンスはRCサクセションの代表作「雨上がりの夜空に」を彷彿とさせます。
詩も曲も2人の共同名義ですが、詩に関しては忌野清志郎の個性が強く出ています。
Baby Oh Baby い・け・な・いルージュマジック
Baby Oh Baby い・け・な・いルージュマジック
出典: い・け・な・いルージュマジック/作詞・作曲:忌野清志郎+坂本龍一
CMに使われた部分です。口紅のキャンペーンソングなのは一目瞭然ですね。
実際のコピーは「口紅マジック」。
ただ二人が曲を作る際に勝手に変えたのは形容詞の部分で、会社からのオファーは「ステキな」だったそうです。
もともとのタイトルに関しては忌野清志郎と坂本龍一でそれはないなという気はします。
もっともオファーのままだったら二人がどんな歌詞を書いていたかとも思いますが。
さてこのいけないですが、いまだったら「イケてない」に通じる意味になりそうです。
でも化粧品の宣伝で「イケてない」はまずいですよね。
しかし実際は「イケてる」「イケてない」は90年代に生まれた表現でこの頃にはまだありません。
なので「よくない」とか「悪い」の湾曲な言い回しになります。
子供相手に使うことが多く、大人の異性に使う場合は若干セクシュアルなニュアンスを含む場合も。
しかし実はもう一つ別の意味も含んでいます。
いけない男子
Oh Baby いけないよ
Baby Oh Baby どこに行くの, No, No
他人の目を気にして生きるなんて
くだらない事さ ぼくは道端で 泣いてる子供
出典: い・け・な・いルージュマジック/作詞・作曲:忌野清志郎+坂本龍一