「あなた」の話した言葉ばかりか、「あなた」の向こうに見えた景色さえも覚えている。
それはつまり「あなた」にかかわることならどんな些細なことでも記憶に残っているということです。
それほどまでに愛していたのに、だからもう一度と願ってもそれは既に叶わない願いです。
星さえも帰るのに…という悲しい気分
星が森へ帰るように 自然に消えて
小さな仕草も はしゃいだあの時の私も
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
「星が森へ帰るように」星が巡り西の森へと沈んで見えなくなるように。
鮮明に記憶に残っている「あなた」のしぐさも、何の不安もなくはしゃいでいたころの私さえもやがて消えてしまえばと歌っています。
楽しかったあの頃
出会った秋の写真には
はにかんだ笑顔
ただ嬉しくて
こんな日がくると
思わなかった
Ah 瞬きもしないで
あなたを胸にやきつけてた
恋しくて
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
出会ったころの写真を見ると「あなた」のはにかんだ笑顔がありました。
その笑顔を見られることがうれしくて、「あなた」がそばにいない「こんな日」がやってくることなんて考えもしなかった当時のことがよみがえります。
「あなた」を恋しく思い瞬きもせずに見つめたのは、写真を見ている今の「私」でしょうか。
Mのページ
あなたの声 聞きたくて
消せないアドレス Mのページを
指でたどってるだけ So once again
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
電話をして声を聞きたいけれど、できずにいる「私」です。
もうそんな関係にないからでしょうか、それとも実際に聞いてしまえば恋しい気持ちがより大きくなってしまう可能性に気付いているからでしょうか。
当時は携帯電話なんてなかった時代(厳密にはありましたが、一般的ではありませんでした)
アドレス帳も当然、紙です。
そのアドレス帳の「M」のページを開いて「あなた」の名前を指でたどるだけという動作に、断ち切れずに引きずったままでいる想いが表れていますが、同時にあふれる想いを堪えようとしていることも伝わってきます。
誰かと去っていった人の後ろ姿
夢見て目が覚めた
黒いジャケット後ろ姿が
誰かと見えなくなっていく
So once again
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
夢の中でも去っていく「あなた」の姿から、「私」の心からも少しずつ「あなた」が離れていこうとしていることがわかります。
見えなくなっていく、遠のいていく「あなた」の姿をもう一度と望むのは単に忘れがたいからでしょうか。
それとも繰り返せばそれだけ早く「あなた」への想いから解き放たれるのではないかという期待からでしょうか。
忘れることで変わりたいのに
星が森へ帰るように
自然に消えて ちいさな仕草も
いつまでも
あなたしか見えない 私も
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
空にまたたく星も、時が経てばやがて西へと傾き森へと隠れ視界から消えてしまいます。
それはごくごく自然なことです。
きっと同じように「私」の心の中に居座る「あなた」の些細な思い出も消えていくでしょう。
いつまでも「あなた」を求めてしまう今の「私」も、やがてはいなくなってしまうはずです。
決別の意思
You are only in my fantasy
Leavin' for the place without your love
出典: M/作詞:富田京子 作曲:奥居香
この歌の中には英語のコーラスが入っています。
「あなたは私の幻想の中にしかいない」
「あなたの愛のない場所へ」
「私」がいつまでも追い求める「あなた」はもう幻想でしかなく、現実を見つめなければならないという思いです。
”leave for ~”は”~へ旅立つ”という意味があり、”the place without your love”を”あなたの愛のない場所”と訳すと「あなたの愛のない場所へと旅立つ」ということになります。
しかし歌詞中を見る限りでは「私」のもとにはすでに「あなた」の愛はありません。
これはただ突き放されるのではなく無いものにすがるのでもなく、『自分の意思でひとりで立とう』『地に足をつけよう』という気持ちの表れではないでしょうか。
幻でしかない「あなた」への想いから解放されて次への一歩を踏み出そうという「私」の意思が、このコーラスには表れているように思えます。