「裁き」という単語からキリスト教的世界観が読み取れます。教えの一つに他者への愛を意味する「隣人愛」があることは知られています。しかしこれが理想論に過ぎないことが分かっていきます。
「戦車と夕日」というフレーズで醜いものと美しいものが対置されます。こんな時代っていつなのか、それは次のフレーズでわかります。
現代の日本の風景
寝ぼけ眼でテレビをつけて ぼやけた頭に無理矢理流れ込んだ
殺人だ強盗だ人身事故だ 流行だアイドルだ もう うるせえよ
人心地つける余裕もなく 僕らの日々は流れに摩耗して
明るいニュースを探している 明るいニュースを探している
ねえママ あなたの言う通り 他人は蹴落として然るべきだ
幸福とは上位入賞の勲章 負けないように 逃げないように
目を覆い隠しても 悲鳴は聞かされて 耳を塞いでも 目をこじ開けられて
出典: 性善説/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
描写されるのは現代の日本の風景、「アイドル」でわかりますよね。ママの教えが成長とともに歪んでいくのがわかります。僕らも大人になるにつれて、親の教えがリアルになっていきましたよね。
隣人愛と満員電車
真っ白な朝日に急かされて あの子の家に向かう電車の中
馬鹿な男の下世話な自慢話に 子供を連れ車両を変える母親を見たよ
各々の思想がぶつかり合って 満員電車は個人的な紛争地帯
僕は僕を保つので精一杯で その実誰かの肩にもたれていたよ
出典: 性善説/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
満員電車に揺られたことは有りますか?そこにあるのは集団ではなく、たくさんの「個」です。みんなが他人を我慢する車内で、隣人愛なんて理想論に過ぎないと悟りますよね。
でも誰かがいないと人間は生きていけません。その矛盾の辛さを、満員電車の描写で切り取っています。
全部嘘だった
ねえママ あなたは言ったじゃないか 嘘をつけばバチがあたると
神に祈れば救われると 苦労はいつか報われると
ねえママ 僕は知ってしまったよ 人間は皆平等だと
世界はあるがまま美しいと それ等は全くの詭弁であると
出典: 性善説/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
「詭弁=嘘っぱち」です。神の教えなんて丸っきり嘘だったのです。世の中嘘つきばっかりだし、神は誰も救わないし、苦労は報われないし、人間は生まれで幸/不幸が決まってしまうし、世界はクソッたれです。
この世は悪で満ちている
否定されてしまった性善説の 後始末を押し付けられた僕らは
逃げ場もなく小箱に閉じ込められて 現実逃避じゃなきゃ もう笑えねえよ
「人は本来優しいものですよ」 それが嘘だと暴いたのはあんただろ
教育だ宗教だ道徳だ 何でもいいから早く次のをくれよ
出典: 性善説/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
「性善説」とは人間は生まれながらにして「善」なる存在であるという説です。だとしたら世界に悪が満ちるわけがありませんよね。「性善説」は否定されました。
教えてくれ、じゃあ僕らは何に希望を持って生きたらいいんだ?
目の前の奴が生まれながらに悪だって知っていても、人間は自分のことしか考えない存在だとしても、それでも良い所を探しながら生きていなければなりません。
信じるものを持つ
ねえママ あなたの言う通り 自分を善だと信じて疑わないときは
他方からは悪だと思われてるものよ あなただけが私の善なのよ
出典: 性善説/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
最後はママのセリフで終わります。この世に完璧な善も悪も存在しません。この文章もたった2行で矛盾しています。
我が子を何よりも優先することは誰かを蔑ろにすることで、それは隣人愛とは真逆の思想で、キリスト教にとっては悪ですよね。
おわりに
親から子への愛は否定できないということでしょう。この曲が伝えたいことは。
ママの言ってたことは何もかも間違ってたけど、「それでも」最後に残ったのは母親からの肯定でした。
amazarashiの掲げる「反虚無主義」の思想に沿って考えるなら、世の中全部嘘っぱちだけど母親からの愛は本当だったということになります。
そうやって自分の基礎を支えるものが一つあるだけで、明日を生きていけますよね。彼らのコンセプトが分かりやすい曲だったんじゃないかと思います。
疲れたときに最後のセーフティネットになるのはamazarashiだと思っています。元気が無くなったらこの曲を聴いてみてください。
それでは、またお会いしましょう。
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