全部嘘ならいいのに

強がる肩をつかんで
バカだなって叱って
優しくKissをして
嘘だよって抱きしめていて
会いたい…

出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫

波打ち際の彼女は、いっときの感情に流された行動を取ろうとしています。

もし彼が、衝動的な彼女の姿を見たらどうするか。何と言うか。彼女は想像しました。

思いとは裏腹に「離して!」と言う彼女を、力づくで静止させる彼。

きっと目と目が合うように、自分の方に向き直らせるのでしょう。

感情の制御が効かない彼女のことを、厳しい口調で叱ります。

しかし、厳しさを打ち消すような優しい口づけをして、彼女を抱き寄せました。

死んだなんて嘘だよ。ここにいる。だから海の向こうに、遠くに行ったらダメだ

そう言ってずっと離れずに抱きしめていて欲しいと、彼女は願います。

遠くへ行くなと言って
お願い 一人にしないで
強く 抱きしめて
私のそばで生きていて

出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫

笑いながら、でもどこか真面目に「遠くへ行くなよ」と言った彼。

近くにいるからこそ言える言葉であり、近くにいて欲しいという彼女の願いが表れています。

海辺では「独り」でしたが、ここでは「一人」という表現を用いています。

彼を失ったばかりの頃は、常に隣にあったぬくもりが消失し、孤独を強く感じていたはずです。

彼女は「独り」きりだと感じたでしょう。

しかし時間が経てば、彼の喪失を現実として受け入れるしかありません。

片割れを失った彼女は独りになり、彼への依存が薄れていくと、大勢の中の一人になっていく。

でも彼女は、彼への執着を失くして「一人」になることを恐れているようです。

もう遠くに行けないように力強く抱きしめていて欲しい。そのためには「生きて」いて欲しい。

この願いが、何よりも一番叶わない願いであり、何よりも一番叶えたい願いなのです。

無理だと分かっていても「会いたい」

今年も海へ行くって
いっぱい映画も観るって
約束したじゃない
あなた 約束したじゃない
会いたい…

出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫

死んでしまった恋人を想う歌はたくさんあります。

死んでしまっても見ていてね、忘れないでね、そういった無理やりなポジティブさが見える曲が大半です。

しかし「会いたい」は最後まで「会いたい」と願い続けます。

死んだ彼に向かって、約束を反故にするなんて!と歌うのです。

生きていて欲しい、と無理を言うのです。

平成の名曲「会いたい」

主人公の心理をもう1度振り返ります

「会いたい」に登場する主人公の心理を中心にもう1度、歌詞を振り返ってみたいと思います。

主人公は女性です。主人公には高校以来の彼氏がいました。

やがて2人は自然の流れで恋人同士になります

1番の歌詞は2人の接点が丁寧に描写されています。

主人公にとったら何の疑問もなく幸せな日々を送っていたひと時でした。

そんな甘いムードが漂っていた歌詞の前半から一気に状況は変わっていきます。

1番の歌詞の後半から主人公は悲劇のヒロインになってしまうからです。

恋人の死の原因は?

主人公の恋人はあっけなくこの世を去ってしまいました。

歌詞の出だしはあんなにいいムードだったのに。

いったい、恋人の男性が亡くなった原因は何なのか?

主人公を狂乱させるくらいの原因は何だったのか?

そのヒントが1番の歌詞にさりげなくありました。

あくまで想像の域になってしまいますが、主人公は不治の病に侵されていたのでしょう。

主人公と永遠の別れを予感させた1節

男性は自分の死を悟っていた

1番の歌詞中に「遠くへ行くなよ」と恋人の男性が主人公に言っている場面があります。

恐らく高校を卒業してお互いが次の進路に進んですぐくらいでしょう。

主人公にとったら男性がどうしてそんなことを言うのか気にもとめなかったはずです。

「離れるわけなんかないでしょ」。きっと主人公は軽い気持ちで思っていたでしょう。

しかし、男性はそれが今生の別れになるかも分からない予感を抱いていたのかもしれません。

男性は子供のころから重い病にかかっていたのでしょう。

どんな病名だったのか、それは歌詞中にもちろんありません。

しかし、自分の命が残り少なくなったと悟った瞬間。

男性は覚悟を決めたのかもわかりません。

「遠くへ行ってほしくない」。

実は自分が遠い手の届かないところに行ってしまうかもしれない現実を男性は主人公に悟らせたくなかった

だから笑顔と真顔を半々にさせて主人公を抱き寄せたのです。

もう2度とできないであろう、主人公のぬくもりを記憶にとどめておくために。