「voyager」のクライマックス

アルバムの予告編的な側面

BUMP OF CHICKEN【voyager】歌詞解説!通信を送っているのは誰?本日モ応答ハ無シ…の画像

応答願ウ
命ノ地表カラ 打チ上ゲラレテ 随分経ツ
ズット 通リ過ギル星ノ 数ヲ数エテ 飛ンデキタ
ソノ度覚エタ 音ヲ繋ギ メロディーヲ送ル

出典: voyager/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

あっという間に「voyager」のクライマックスに到着しました。

ボイジャー計画の息の長さに較べると「voyager」にしても「flyby」にしてもあまりにも短すぎます。

人の瞬きにも似たほんの一瞬の隙間に発せられた楽曲です。

クライマックスに至ってもまだ応答はありません

カタカナ表記に戻し、再度、宇宙空間での孤独な旅路を想い起こさせます。

明らかにNASAからのボイジャーの打ち上げに言及しているのが分かるはずです。

ボイジャー1号・2号が地球に送り続けたたくさんの情報。

膨大な情報はボイジャー号がたくさんの惑星とその衛星の間をすり抜けて旅をしてきたことの証です。

BUMP OF CHICKENはこれからアルバム「orbital period」で、その旅路から得た音楽を鳴らすと宣言。

「voyager」は孤独な叫びについて大事な考察を遺しています。

一方でアルバムのオープニングを飾る予告編のような役割をしているのです。

ボイジャー号の孤独な旅路は、藤原基央の内面生活の孤独の隠喩になります。

孤独の中で感覚を研ぎ澄ませて、これから素敵な音楽をリスナーに届けることを約束するのです。

これは音楽というものが社会性を帯びたものであることに基づきます。

クリエイターやアーティストとリスナーによる魂の交歓

それが音楽の基本です。

音楽というものもまた生まれながらにして社会的な存在であります。

アーティストは孤独な想察の中で自身の表現を磨き上げるのです。

そしてそれをメディアに乗せることで社会的に発信します。

幸いにしてBUMP OF CHICKENの発信は多くのリスナーが歓迎してくれるのです。

その音を、メロディーを私たちは享受します

この交信は幸運のうちに成就するのです。

ただし、「voyager」だけでは予告だけしか受け取れません。

もっとよく理解するためには「orbital period」のラストの「flyby」について見ていく必要があります。

「voyager」に関しての記事ですが、「flyby」という完結編についても見ていきましょう。

「voyager」の姉妹曲「flyby」

共通するテーマ

BUMP OF CHICKEN【voyager】歌詞解説!通信を送っているのは誰?本日モ応答ハ無シ…の画像

ワタシハ ドンナニ離レテモ イツダッテ僕ノ 周回軌道上
アナタハ ドンナニ離レテモ イツダッテ君ノ 周回軌道上

出典: flyby/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

「flyby」は「voyager」とともに作詞作曲されます

ほぼ同じ曲のように聴くことができます。

ただし、同じなのはバックの演奏だけです。

テーマは「voyager」と同じなのですが、メロディーと歌詞に違いがあります。

「flyby」とはボイジャー号が大きな惑星に接近飛行することからモチーフを獲ているのです。

この曲「flyby」を解釈することで「voyager」の謎が解けます

疎外された自分に気付いて

BUMP OF CHICKEN【voyager】歌詞解説!通信を送っているのは誰?本日モ応答ハ無シ…の画像

自分の心の推移に気付かなくなるほどに、自分を見失うことがあります。

しかしそんなときであっても心は自分を裏切らずに自分のものであり続けるとリスナーを鼓舞するのです。

藤原基央はこのことを様々な楽曲で展開します。

たとえば名曲Smile」でも辛いときは鏡の中に映る人、つまり自分に訊ねてみてと歌うのです。

自分だけが自分を裏切らないというテーマBUMP OF CHICKENを貫く主要なテーマでしょう。

自分が孤独である瞬間にも自分という必ず側にいる人に気づいて欲しい。

藤原基央が長年大事に温め続けるテーマです。

忙しい日々の中で自分が自分自身から疎外されていることに気付くことがあります。

そうした日にこそ自分を再発見して欲しいと藤原基央は願うのです。

無意識という領域

奥に潜む自分からの声

BUMP OF CHICKEN【voyager】歌詞解説!通信を送っているのは誰?本日モ応答ハ無シ…の画像

応答願ウ
心ノ裏側ヲ グルリト回リ戻ッテキタ
flyby 距離ハソノママデモ 確カニスグ側ニ居タ
バイバイ 忘レテモ構ワナイ 忘レナイカラ
応答願ウ ズット 応答願ウ
教エテモラエタ 声ヲ乗セテ メロディーヲ送ル

出典: flyby/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

無人探査機は音も立てずに惑星の周りを接近飛行して情報を収集します。

「flyby」では自覚しないうちに自分の心の裏面に到達して、その情報を集めたというのです。

自分の心のうちが分からない。

私たちは無意識という広大な未知の心の領域を抱えています。

意識だけでは説明できない感情が湧き出ることの真相を「flyby」することで確かめてきた。

調べてみると自分は確かに心の裏面にもいたから自分を信じてあげてと歌います。

心の裏面、あるいは無意識の事柄は意識の上に登りません。

無意識で起きたことはいずれノイズのように自分の中に沈殿してしまいます。

二度と意識の上に現れることはないかもしれません。

そうした意味では「忘れる」ことなのです。

しかし「忘れる」ことではあっても心の澱物(おりもの)は内側に留まり続けます

バイバイ 忘レテモ構ワナイ 忘レナイカラ

出典: flyby/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

この矛盾するような言葉は私たちの心のうちの無意識の働きについて考えると理解できるのです。

周回軌道に乗って心の裏面の映像を記録してきたから大丈夫。

この記録はずっと遺り続けるから自分でその映像を確認したら忘れてもいいと歌います。

自分の心のうちの声に応答してあげてとも歌っている。

自分はずっと近くの自分に向けて声を発することがある。

その声を大事にして、心の淵から音楽を贈りだすよと藤原基央は歌います。