シューゲイザーバンド羊文学の「Step」
■シューゲイザー
フィードバック・ノイズやエフェクターなどを複雑に用いた深いディストーションをかけたギターサウンド、ミニマルなリフの繰り返し、ポップで甘いメロディーを際立たせた浮遊感のあるサウンド、囁くように歌い上げるボーカル(中略)。
1960年代後半に流行したサイケデリック・ロックのリバイバル、あるいは新解釈という面があり、オルタナティヴ・ロックの1ジャンルと捉えられている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/シューゲイザー
1990年代から活躍するイギリスのスロウダイヴやチャプターハウス、あるいはアイスランドのシガー・ロス。
数々のシューゲイザーバンドが20~30年後の日本に影響を及ぼしました。
2010年代、イギリスのヤックの活躍を踏まえるとシューゲイザーは世界的にリバイバル、再評価の波があります。
SUPERCAR、THE NOVEMBERS、きのこ帝国、そして羊文学。
非常に大雑把ですが、日本のシューゲイザーバンドとしてはこうした捉え方もできるかもしれません。
そんな羊文学の拠点は東京・下北沢。
2017年2月から女性2人、男性1人の3ピースで活動しています。
1人だけ男性のドラム、フクダヒロアさんがかつてリーガルリリーのサポートをしていた点も興味深いでしょう。
今回ご紹介する「Step」は、1stEP「トンネルを抜けたら」の収録曲。
1stアルバム「若者たちへ」にも収録されています。
ソリッドなバンドサウンドとは対照的な、透明感あふれる歌声とエモーショナルな歌詞が特徴。
輝く思い出を妬んだり、笑ったり。
果たして気分はネガティブなのか、ポジティブなのか、どちらでしょうか。
1番の歌詞を見よう!
再起不能?
長い階段を かけ上がってたら
足が疲れて 座り込んでしまった
一度こうなると
立ち上がるのには
ものすごく強い
心がいるなと思った
出典: Step/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
バンド名からすると、歌物語がしっかり作り込まれているイメージを抱くかもしれません。
ところが割とストレート。
シンプルな思いが綴られています。
さて、皆さんの身近にも段数の多いステップがあるのではないでしょうか。
1段ずつゆっくり踏みしめるように歩みを進めても疲れてしまいそうです。
ところが、この歌物語の主人公は上まで一気に走り抜けました。
息が切れる様子が目に浮かびます。
それだけではなく、立っていることもできなくなってしまいました。
この状況では、さすがにまわりの方々が驚くのではないでしょうか。
大丈夫?と声をかけたくなります。
しかもそのままの状態でフリーズし、再び歩き出すことが大変な様子です。
体力よりも、精神的な問題のほうが気になる状態ではないでしょうか。
2012年、塩塚さんが高校生のときに5人で結成したという羊文学。
しかし、この曲がリリースされた2017年には3人体制になっています。
こうしたメンバーチェンジを含む音楽活動での苦労を、段数の多いステップにたとえているのかもしれません。
頑張りすぎたせいで再起不能。
精神的に強くならないといけない!と自分を鼓舞しているイメージです。
主人公が笑う理由
映画にうつってた
ハッピーエンドは
あたりまえだけど 作り話だって
気づいてからは いろんなことを
仕方ないからと
笑ってゆけるようになった
出典: Step/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
本当は泣きたい気分のはずです。
しかし大変なときこそ笑い飛ばすくらいでないとなかなか前に進めません。
前を向くために笑う必要がある。
そういう流れでしょう。
この歌物語の主人公は、ステップを上り詰めたところでくたばり、動けなくなりました。
そこから再び前進する方法として編み出したのが、諦めて笑うこと。
ただ、本当は泣きたい気分なので、そのままでは笑えません。
たまたま映画を観て、そういえばどれほど幸福な結末でもフィクションだと認識したのでしょう。
幸福なんて創作に過ぎない。
改めてそう思ったわけです。
そのおかげで諦めて笑うことができるようになりました。
笑うことさえできればポジティブに生きられるのではないでしょうか。
サビの歌詞を見よう!
まだ再起不能だった
君はさよならも
言わずにゆくだろう
窓を抜ける風
プールサイドみたいな においだ
わたしまだ壊れたままでいる
出典: Step/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
ところが主人公は完全に立ち直って前を向いたわけではありませんでした。
確かに「幸せな物語は所詮フィクション」と考えたところで、本当の幸せを手に入れたわけではありません。
諦めた笑いと喜びの笑いは別物。
むしろ笑うしかない状態ですね。
さて、再起できないほどショックな出来事とは何だったのでしょうか。
答えは、誰かとの別れ。
作り込まれたラブソングとして解釈するなら、その相手は恋人でしょう。
ただ、羊文学の歌詞は、塩塚さんの思いがストレートに語られているものが多いのではないでしょうか。
そうすると、やはり音楽仲間、バンドメンバーとの別れになります。
宣言せず脱退しようとしているメンバーに思いを馳せた印象です。
季節は夏だったのかもしれません。