壮絶な大失恋
歌詞の中には、女性がそのような思いをしていたという描写はありません。
また女性が彼と大恋愛の末に分かれてしまった、とも触れてはいません。
しかし女性が受けた心の傷は嫌というほど分かります。
きっと、愛していたはずの男性から数々の裏切りを受けていたのでしょう。
それを耐え忍んでいたはずの女性でしたが、遂に堪忍袋の緒が切れる時が来たのです。
その時の思いが歌1曲で鮮明に思い出されるとは。
運命のいたずらのような感傷にひたる主人公の女性でした。
あなたへの思いは消し去れないが…
愛してる愛してる今は誰のため
愛してる愛してる君よ歌う
やっと忘れた歌がもう一度はやる
出典: りばいばる/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
リバイバル・ソングの一節を、主人公は今でも強烈に覚えていました。
それほど、この曲が流行っていた頃は女性にとったら忘れられない思い出なのです。
ということは主人公の女性は未だに男性に対して未練を引きずっているのでしょうか?
ふと耳にしただけでこれだけ鮮明に思い出してしまうからです。
しかし、主人公の今の思いは、遠い過去への哀惜の思いだけでしょう。
別に別れた男性にもう一度会って話をしたいという衝動はないようです。
それほどこの別れは、主人公を大人の女性に成長させたのです。
記憶から消えたと思っていたこの歌に、妙な懐かしさを感じただけなのかも分かりません。
そのあたりの思いは次の2番の歌詞からもうかがえてきます。
動揺なんてあるはずない
もう昔話なだけ
なにもことばに残る誓いはなく
なにも形に残る思い出もない
出典: りばいばる/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
女性と男性との別れは、もうとっくに過ぎ去った昔話なのです。
だからいまさらあの当時流行った曲を聴いたところで、何の感慨も浮かんでこない。
だって、その時の証すらもないのだから。
女性の辛い思いは、この10年間という歳月が奇麗さっぱり洗い流してくれたのです。
ただ、あの時の熱い思いが全てどこかへ消し飛んでしまったわけでもなさそうです。
それが証拠に次の歌詞で女性の女心というものが描写されています。
その描写が何を意味しているのか?
次はそれを探ってみましょう。
無意識にやっているあの頃の哀惜
酒に氷を入れて飲むのが好き
それが誰の真似かもとうに忘れた頃
出典: りばいばる/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
どうやらこの主人公の女性は、かなりのお酒の通のようです。
お酒を一切、割ったりしないでロックにして氷を「カキン」と鳴らして飲む。
なかなかお酒の通でないと飲めない飲み方です。
こんな飲み方、女性が自分で開発したとは思えません。
恐らく別れた男性が好んで飲んでいた飲み方でしょう。
別れた男性に対する思いは、全くないとは思っていながら。
無意識に大好きだった男性の癖をそのまま受け継いでいる女性。
このあたりに、女性の女心が見え隠れしているのです。
その当時、女性はさほどお酒は強くなかったのかもしれません。
しかし好きだった男性の真似をしているうちにいつしかいける口になってしまったのでしょう。
この後、歌詞はサビの部分に入っていきます。
時間が私を強くしたのか
もはや女性にとって、この曲がどう耳に届こうが動揺はないようです。
時間が主人公の女性を強い「女性」にしたのです。
かつての主人公の女性ならば、ふと耳に入ってきた懐かしい曲を聞いたらどうだったでしょう?
もしかしたら、昔のことを思いだして涙ぐんだかもわかりません。
しかし、今の主人公にとったらそんな感傷的に浸るような気持ちは、もうないようですね。
いくら過去を思いださせる偶然とはいえ、既に女性は過去と決別できているのです。
恐らくもう以前のような弱々しい生き方は蘇らないでしょう。
そして曲はサビの部分をもう一度歌い上げて終わってゆくのです。