『In The Zoo』

8分間に及ぶ壮大なサイケデリック・ソング

In The Zoo/Suchmos

作品を発表するごとに新鮮な驚きを私たちに提供してくれるバンド

そんなSuchmosの歩みをリアルタイムで感じることができる私たちはなんと幸せなのでしょう。

今回紹介する『In The Zoo』MVは一見すると非常に難解な作品だといわれています。

約8分間に及ぶ壮大なサイケデリック空間に彼らはどのようなメッセージを込めたのでしょう?

Suchmosが最高傑作と自負する3rdアルバム『THE ANYMAL』

その実質的リードトラックともいえる『In The Zoo』のMVを徹底解説しつつその謎に迫ってみましょう。

人類と地球を俯瞰した物語

壮大なスケールと相反するシンプルな構成

Suchmos【In The Zoo】MVを徹底解説!ヴィンテージな雰囲気が最高!暗闇に酔いしれようの画像

『In The Zoo』の収録時間はなんと8分16秒

これは通常、約3分半で構成されるJ-POPのフォーマットの倍以上の長さです。

2018年発表の『VOLT-AGE』での7分越えの前例があるとはいえかなり野心的な作風だといえます。

さらにSuchmosは『In The Zoo』のMVを制作するにあたり極限まで無駄を省いた手法を取ったのです。

撮影場所は薄暗い倉庫の1か所のみ

演奏シーンもYONCEのソロパート&バンドが円形になり演奏するパートの2カットのみです。

随所に挿入されるイメージカットやヴィジュアル・エフェクトも最小限に抑えられています。

その代わりに徹底的にこだわったのは微細なカメラワークライティングによる光と闇のコントラストです。

青い星=地球から人類を俯瞰した物語

食われる為に食わされる 鉄の味のFoods
埋め立てるたびに流される涙は青い星の血の色らしい

出典: In The Zoo/作詞:YONCE 作曲:Suchmos

なぜなら『In The Zoo』は現代の人類が抱える光と闇を描いた物語

さらにいえば地球という巨大な視点から人類の歴史を俯瞰した壮大な組曲なのです。

歌詞を意識しつつ楽曲を最後まで聴くことで彼らの意図したことが分かるでしょう。

そう、これは長時間のMVではなく8分という決して長くない短編映画のような実験作なのです。

映像作家:山田健人が作り上げた世界とは?

70年代グラインドハウス映画へのオマージュ

Suchmos【In The Zoo】MVを徹底解説!ヴィンテージな雰囲気が最高!暗闇に酔いしれようの画像

『In The Zoo』のMVを監督したのは気鋭の映像作家 山田健人氏

彼はyahyelの正式メンバーとして主にヴィジュアル・デザインを担当する人物です。

Suchmosと山田氏の付き合いは1stアルバム『THE BAY』まで遡ります。

その中で『YMM』そして『GIRL feat.呂布』のMVは山田氏のディレクション作品なのです。

旧知の仲ということで意思の疎通をはかりつつ制作されたであろう『In The Zoo』のMV。

そこで山田氏が作り上げたのは70年代アメリカのグラインドハウス映画の世界観でした。

グラインドハウスとはハリウッドが最も低迷していた時期の超低予算娯楽映画を指します。

主にストリップ劇場で公開されていたというグラインドハウス作品は後の映像界に重要な爪痕を残したのです。

「イージーライダー」「タクシードライバー」などの名作とされるアメリカンニューシネマ作品。

これらもグラインドハウスの位置づけで制作されているのです。

アメリカンニューシネマからの影響

Suchmos【In The Zoo】MVを徹底解説!ヴィンテージな雰囲気が最高!暗闇に酔いしれようの画像

『In The Zoo』で顕著にグラインドハウスからの影響を感じさせるのがチープなCGによるエフェクト処理です

「イージーライダー」をご覧になった誰もが印象に残っているであろう中盤のシーンがあります。

ピーター・フォンダとデニス・ホッパー、そして女性2人が墓地である錠剤を使用しハイになる場面です。

The Byrds、Jimi Hendrixの音楽とシンクロしたサイケデリック・ムービーの古典。

そしてヒッピーカルチャーの終焉を暗示する作品として有名なのが「イージーライダー」です。

『In The Zoo』のMVは現代社会のある種の不自由さ・理不尽さを表現しています

山田氏が意図的にアメリカンニューシネマのテーマ性と重ね合わせたのかは不明です。

しかし筆者の考察では暗闇と光の対比やチープなCGエフェクトのルーツはその辺りにあると思われます。

奏でられるあのメロディー