米津玄師「翡翠の狼」
シングル「orion」収録
米津玄師の「翡翠の狼」は、メジャー6枚目のシングル「orion」に収録された楽曲です。
シングルのカップリング曲としてリリースされたこの曲はあまり有名ではありませんが、隠れた名曲としてファンからの支持も密かに熱い曲となっています。
独特の音楽性を持つ米津玄師ですが、この曲もそんな彼の個性が発揮された一癖ある作品です。
この曲が収録されたシングルの表題曲「orion」といえば、アニメ「3月のライオン」のエンディングテーマになったことで知られていますよね。メロディアスでどこか切なくて、じっくりと浸れる名曲です。
シングルはオリコンデイリーチャートで1位、週間チャートでも3位を記録するヒットとなりました。
軽快なポップナンバー

「翡翠の狼」のMVは製作されていないので、弾き語りによるカバー動画でぜひ曲の雰囲気を聴いてみてください。
「翡翠の狼」は、カバー動画からも分かるように軽快で爽やかなポップナンバーとなっています。シングル「orion」の3曲目として、後味の良い最後を飾っていますね。
「狼」というテーマからなのか、曲中には遠吠えが挟まれていたりしてどこか可愛らしさを感じられます。
動物を主人公に据えたファンタジックな物語が展開される歌詞や爽やかな曲調からは、米津玄師自身も影響を公言するBUMP OF CHICKENの「ダンデライオン」などへのリスペクトが感じられます。
明るくポップな曲調の中で歌詞の物語はどこか寂しげで、その情景を想像して切なくなってしまいます。
そんな「翡翠の狼」の歌詞を紐解いていきましょう。
「翡翠の狼」の歌詞を紐解く
「孤独」を描く歌詞
孤独の寂しさ噛み砕いて 沸き立つ思いに耳を傾けて
泥濘踏みつけ歩いていけ 嵐の中涙流しながら
翡翠の狼はまた嘆く その身に宿す美しさも知らず
高めの崖を前にほら嘆く 誰かの力借りりゃ楽なのに
もうじき誰か友だちが来るさ
口笛吹きながら夢を見ていた
出典: http://j-lyric.net/artist/a0579b7/l03e32c.html
「翡翠の狼」で描かれているテーマは「孤独」だと言われています。「狼」というワードも、気高くて孤独な雰囲気を感じさせますよね。
自分の中にある美しさに気づかず独りでさまよう様は、アーティストとして創作活動をする上でのこのうえない孤独感を感じさせますね。
何か創作活動に打ち込んだ経験がある人なら共感できる心情ではないでしょうか。
「誰かの力借りりゃ楽なのに」という言葉からは、ボカロP「ハチ」として活動していた頃からユニットやバンドではなく一人きりで活動していた米津玄師ならではの苦悩も感じられます。
「もうじき誰か友だちが来るさ」という言葉には、独りきりでの孤独な時期を乗り越えようとしている過去の米津玄師の想いが表れているようです。
道のりはまだ続く
どこまで行くのか決めてなんかないが
ひたすらあなたに会いたいだけ
知らない間に遠くまで来たが
暖かい場所はまだ向こうか
出典: http://j-lyric.net/artist/a0579b7/l03e32c.html
「あなた」というのは、まだ自分の作品と出会っていない未来のファンのことでしょうか。
創作を突き詰めて前へ前へと進んでいく道のりに終わりはありません。
元々はアマチュアクリエイターとしてインターネットで音楽活動を始めたことがきっかけでメジャーアーティストにまでなった米津玄師にとって、ふと気づいて振り返ったときのこれまでの道のりはとても長いのでしょう。
「遠くまで来たな」と思わせるものなのではないでしょうか。
しかし、それでも彼が追い求める「暖かい場所」にはたどり着いていないようです。
辛くてもただ歩いていくだけ
りんごの花咲く春の日まで 心の目印曇らせないように
吹雪に曝され歩いていけ 虚しさ抱え混沌の最中まで
翡翠の狼は絶え間なく 我が身に怒りを向けては歌を歌う
戦え誰にも知られぬまま それで自分を愛せるのならば
かけがえのないものはなんだろな
踵鳴らしながら待ちぼうけだ
出典: http://j-lyric.net/artist/a0579b7/l03e32c.html
続く歌詞では、自分を厳しく鼓舞するような言葉が続きます。
決して目標を見失うことなく、「吹雪に曝され歩いていけ」と語る歌詞。そうして進んでいった先には、「混沌」も待っているでしょう。
そして、そんな混沌を乗り越えた先にこそ素晴らしい作品が待っています。
創作は、誰もが自分をぼろぼろに傷つけながら挑む孤独な戦いです。
そこに真正面から臨み続ける米津玄師の強さが感じられます。
消せない記憶と苦しみの中で
終わりが来るのをただ待つだけ
この世で誰より綺麗なあなたに
愛しているよと伝えるまで
出典: http://j-lyric.net/artist/a0579b7/l03e32c.html
「消せない記憶と苦しみ」とは、米津玄師が今の場所にたどり着くまでに抱えてきた様々な苦悩でしょうか。
「終わりが来るのをただ待つだけ」という歌詞にもあるように、創作活動の道のりが終わるのは自分の命が終わるときだけです。
誰もが共感できる創造の孤独について歌っている曲ですが、このサビの歌詞では特定の「あなた」に向けたような言葉もあって、そこにどんな意味合いがあるのか想像させられますね。