続いて、主人公は次のたとえ話をします。
もしもあなたが辛くて眠れなくなったとしたら。
自分の名前を呼んで欲しいというのです。
この“たとえば”という言葉は、眠れないことにかかっています。
なので、主人公が死ぬこととは関係ないのかもしれません。
でも全体の流れからいって、もし主人公が死んでしまってという前置きがあるのでしょう。
大切な人を失った悲しみはとても深くて大きいのではないでしょうか。
それを考えると、死ぬ前にあらかじめ慰めてあげることはとても素敵なことなのではないでしょうか。
小さくても大丈夫
ぼくの名前を 風にのせて
そっと呼んでくれ
出典: たとえばぼくが死んだら/作詞:森田童子 作曲:森田童子
主人公は、なぜ暗い海を選んだのでしょうか。
夜の海はとても暗くて、水平線も見えないのでどこまでも続いていそうです。
その続いている先は、この世だけとは限りません。
死んだ主人公が存在する、あの世に続いているのではないでしょうか。
だから主人公は、海にむかって名前をよんで欲しいと言ったのでしょう。
呼び掛けた先には、きっと自分が存在しているのだ。
そう伝えたいのではないでしょうか。
大きい声でなくて大丈夫。
小さい声でも必ず聞こえているから、と励ましてくれているようです。
散る花
香り
たとえば 雨にうたれて
杏子の花が散っている
出典: たとえばぼくが死んだら/作詞:森田童子 作曲:森田童子
杏子の花は、写真のような梅に似て小作りの小さな可愛いピンクの花です。
ですが、実は杏子のほうが大きく黄色い実がなるのです。
花が咲くのは、3月の下旬から4月の上旬にかけてで梅よりも遅い春に咲くようです。
杏子の花言葉は「臆病な愛 乙女のはにかみ」という意味なのだそう。
この歌にぴったりの花言葉なのではないでしょうか。
ごく控えめな、でもとても優しい愛を感じます。
春の花と意識すると、雨に打たれて花びらが落ちる様子もどこかあたたかな印象を受けますね。
見えるぼくの姿
故郷をすてた ぼくが上着の
衿を立てて歩いている
出典: たとえばぼくが死んだら/作詞:森田童子 作曲:森田童子
春といえば、出会いと別れの季節でもありますね。
主人公は、故郷を捨てた自分が見えると言っています。
さっそうと故郷を出て行く自分を、自嘲しているような印象を受けます。
杏子の花が綺麗な故郷を捨てたことを後悔しているのではないでしょうか。
だから、衿を立てている、とかっこつけている様子を伝えたかったのだと思うのです。
だからといって、完全に後悔をしているわけでもないのではないのでしょう。
故郷を捨てた理由は、夢を追うため。
家を出た先に、夢があるから外へ出たのです。
杏子の花びらが散って、実をつけるように自然な流れだったのではないでしょうか。
束の間の明かり
たとえば マッチをすっては
悲しみをもやす この ぼくの
涙もろい 想いは 何だろう
出典: たとえばぼくが死んだら/作詞:森田童子 作曲:森田童子
マッチは、短い木の棒の先に火薬がついていて摩擦によって火がつきます。
炎はずっとついているわけではなく、ほんの束の間、火が燃えるのです。
主人公は、このマッチを何度も燃やしているのではないでしょうか。
マッチは一瞬周囲を明るくし、すぐに消えて暗くなってしまいます。
火が消え暗くなる度に、悲しみが現れてくるのだと思うのです。
主人公の癒されない悲しみは、人は必ず死ぬという無常感につながっているのではないでしょうか。
どんな人でも命には限りがあります。
だからこそ、伝えたい想いがあるのでしょう。