ハイヒール両手に下げて
逃げたりしちゃいけない
片目をつぶって見るだけでいい
あの人はいい人だから
傷つけたり出来ない
その日を思ってあれこれ悩む
出典: 狼なんか怖くない/作詞:阿久悠 作曲:吉田拓郎
彼女が裸足で駆けているのは、誰もいないどこかの海岸なのでしょう。
ハイヒールは、ルージュと同じく大人の女性のシンボルです。
静かに波が打ち寄せる浜辺で彼と戯れるのは、彼女が憧れる初めてのデートです。
片目を閉じるのは、いたずらっぽいウインクのことなのでしょうか。
理想の男性はナイーブで傷つきやすい人なのですが、まだ付き合ってもいないのです。
彼女の頭の中で妄想デートはどんどん膨らんでいきます。
“いい人”が突然“狼”に変わる時が、ドキドキするけど楽しみなのかもしれません。
本当は“変わりますか”ではなくて、“変わってほしい”と思っているのではないでしょうか。
こんなだったらどうしよう、あんなだったらどうしようと勝手に思い悩む。
恋に憧れる年頃の女の子にとっては幸せな時間です。
ヒットソングを歌ったのは誰?
微熱に浮かされる少女の恋
熱が出るわと誰かがいってたわ
ヒットソングの言葉だったかしら
あなたも狼に変わりますか
あなたが狼なら怖くない
出典: 狼なんか怖くない/作詞:阿久悠 作曲:吉田拓郎
ここにも1番の歌詞と同じように“誰か”が出てきます。
この歌詞は当時のヒット曲の中に思い当たるものはなく、調べてみましたが残念ながら分かりませんでした。
ひょっとしたら阿久悠が1番の歌詞に対比させるように、それらしい歌詞を考えただけなのでしょうか。
ここに入れるとしたら音楽・映画・小説・漫画のどれかに出てくる台詞や名場面です。
自分の好きな言葉や台詞を好きなアイドルの曲に当てはめてみるのも、楽しいかもしれませんね。
試しにやってみたら、作詞家の仕事が如何に難しいかよく分かるのではないかと思います。
阿久悠が考えたのは、誰かを好きになったせいで微熱に頬を赤らめた少女なのでしょう。
恋に色々と想像を膨らませるのは、楽しいけれどちょっとだけ大変なのです。
デートをする時のルージュの色や、キスをする時の唇の形。
あれこれ思い悩む姿もまた可愛いなと思わせてくれるのが、「狼なんか怖くない」を歌う石野真子でした。
難しい歌い出し
デビュー曲は最高のプレゼント
タイトルとサビのメロディーから始まるのが、この曲の特徴です。
いわゆる“ツカミ”で文字通りファンの心を鷲掴みにする、心憎いオープニングだなと思います。
ただし、ほんの短いイントロに続いてすぐに歌い出さなければいけません。
おまけに“♪あなたも~”と高い音へ上がっていくので、余計に難しいのがこの曲の歌い出しです。
生で歌う時は、音を外さないように緊張したのではないでしょうか。
ここでマイクを持たない右手を使って、影絵の狐と同じ“狼”の振り付けが入ります。
影絵の狼は両手を使いますが、片手しか使えないので狐と同じ形の“狼”になったのです。
可愛い振り付けを入れることで、少しは緊張がほぐれたかもしれませんね。
試しにこの曲をカラオケで歌ってみると、なかなかハードルが高いのがよく分かります。
デビューでいきなり難しい曲を歌うことになったのは、彼女にとって最初の試練だったでしょう。
その代わり「狼なんか怖くない」は石野真子の代表曲になり、彼女への最高のプレゼントになりました。
8時間もかかったレコーディング
だんだん歌が上手くなる?
デビュー後にリリースした曲と聴き比べてみると、「狼なんか怖くない」は何かが違う気がします。
少し上ずったような声で、音程もやや不安定に感じるのです。
初々しいといえばそうなのですが、緊張がそのまま音源に残されてしまったのでしょうか。
実際にこの曲をレコーディングした時に、石野真子はかなり苦労したそうです。
レコーディング当日、吉田は徹夜で石野に付き添う。「狼なんか怖くない」は音程の上がり下がりが難しく、「レコーディングに8時間もかかった」と後に石野はコメントしている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/狼なんか怖くない (石野真子の曲)
「狼なんか怖くない」を作曲した吉田拓郎は、“拓郎節”と呼ばれる独特の作風を持っています。
例を挙げると森進一に書いた「襟裳岬」も、メロディーが上下に細かく動く曲でした。
当時まだ17才でデビューを控えた彼女は緊張もしたでしょうし、難しい曲を歌うのは大変だったでしょう。
アイドルになるには歌唱力だけではなく、ルックスや性格・雰囲気なども重要なのだと思います。
それでも歌うことはアイドルにとって最も重要な仕事です。
スタジオで丸一日かけて頑張ったことは、彼女にとって大きな財産になったのではないでしょうか。
その後にヒットさせた「ジュリーがライバル」や「春ラ!ラ!ラ!」では、伸びやかな歌声を聴くことができます。
レッスンと経験を積むことで、だんだんと歌が上手になるものなのですね。