願いを叶えるために進み始める際、必要なものは何もありません。
ただ自分は本当はこういう望みをもっているのだと、覚悟するだけでかまわないのです。
この部分はアニメ第4期の内容を明確に連想させます。
作中で捕らわれの少女・壊理を助けるために多くのヒーローが敵の攻撃で傷つきました。
そのとき彼女は自分を助けに来てくれた人の手を放してしまいます。
自分のせいでヒーローが攻撃されるのを見るより、救助を諦めるという選択肢を選んでしまったのです。
ここで救い出されなければ、自分がもっとひどい目にあうことはわかっていました。
それでも他人が傷つくのを見るより、自分が傷つくことを選んでしまいます。
それは確かに壊理の優しさでもあったのでしょう。
ですがそれと同時に、あまりに自分を蔑ろにしていると言わざるを得ません。
自分への「愛」が足りないともいえるでしょう。
そうして1度は自分の身を諦めてしまった彼女ですが、敵に連れ去らわれる直前考えを改めます。
自分を助けに来てくれた存在に、思わず手を伸ばしました。
ヒーローに助けてほしい、それこそが心の奥底にある本当の願い。
壊理はただ、彼らが自分を必ず助けてくれると信じるだけで良かったのです。
それを信じるために強さは必要ありません。
自分が本当は救われたいのだと、ただ静かに覚悟を決めるだけで良かったのです。
悲しみも乗り越えて行ける
この先でどんな痛みが襲ってもそれだけが君を救うだろう
臆せず 歩き出せ
出典: 航海の唄/作詞:さユり 作曲:さユり
これからどんな辛い出来事があったとしても、信じる心があれば乗り越えて行けるのです。
だから、怖がらずに一歩を踏み出そうと歌っています。
今までヒロアカのエンディングテーマとして描かれていたのは、主に必ず救うという救う側の覚悟でした。
ですが「航海の唄」で描かれているのは、救われる側にも救われることへの覚悟が必要だということです。
歩み始めたけどうまくいかない日々
印は無い一生を“今日”という瞬間に切り分けて
一歩に息を吹き込んでいる
醜さも晒しながら静かにめくりめく日常に 理想に身を焦がす
出典: 航海の唄/作詞:さユり 作曲:さユり
いよいよ心の奥底にある本当の望みのために歩み始めました。
毎日を懸命に生きようとしている様子が伺えます。
ですがそんな日々もなかなかうまくいかないようですね。
いくら覚悟を決めたからといって、簡単に変われるものではないのでしょう。
それでも「理想」があるので、決して諦めたりはしません。
ここでいう「理想」とは成りたい姿を現しています。
それはありのままの自分を受け入れて、心の奥底にある願いを蔑ろにしない、そんな自分ではないでしょうか。
1stアルバム「ミカヅキの航海」との繋がり
月下の願い
本曲以外にもさユりは「航海」をタイトルに冠したアルバムを発表しています。
それが1stアルバム「ミカヅキの航海」。
このアルバムに収録されている「ミカヅキ」は、「航海の唄」と密接な関わりがあるといえます。
それでも 誰かに見つけて欲しくて
夜空見上げて叫んでいる
逃げ出したいなぁ 逃げ出せない
明るい未来は見えない ねぇ
出典: ミカヅキ/作詞:さユり 作曲:さユり
「ミカヅキ」では満月を下から見あげて他者からの愛を願っていました。
内心逃げたいと思っていても、逃げるわけにはいかないというようなある種の焦燥感さえ感じられます。
ねぇ目を閉じて 心を聞いて
見つめた願い今もまだ歌い続けてる 月の下
立ち向かう足が震えていたって間違いじゃない
迷っても逃げたくはない
出典: 航海の唄/作詞:さユり 作曲:さユり
そんなさユりが「航海の唄」では、以前と異なることを願っていました。
それは不完全なありのままの自分を愛せる自分になること。
自分を蔑ろにせず、心の奥底にある願いのために進めるような自分になりたがっています。
他人を優先するあまり自分を後回しにしたりしない、そんな自分になろうとしているのです。
確かに変わることが怖いこともあるでしょう。
ですが、たとえ変化を恐れたとしてもそれ自体は悪いことではありません。
なにより、決して逃げないと覚悟を決めています。
「ミカヅキ」では内心逃げてしまいたいと思っていた彼女が「航海の唄」では逃げたくないと歌っているのです。
この対比は胸が熱くなりますね。
夜の海へと漕ぎ出す
選んだ未来は誰も知らない夜を縫い 彷徨う君だけの海
無傷では何も勝ち取れないと知って 動き出した呼吸を捉えたよ
まだ 明日に届かなくても
出典: 航海の唄/作詞:さユり 作曲:さユり