笑顔が素敵なアン・ルイス
歌謡ロックの前は正統派歌謡曲
80年代に「六本木心中」や「ああ無情」など立て続けにヒットを飛ばしたアン・ルイス。
どちらも”歌謡ロック”と呼ばれたディストーションの効いたギターサウンドが目立つかっこいい曲でした。
派手なファッションも彼女の奔放なキャラクターに似合っていたし、とにかく明るい笑顔が素敵だったのです。
ところが最初にヒットした「グッド・バイ・マイ・ラブ」はまったくタイプの違う曲でした。
いかにも歌謡曲というメロディーで、ポップな中にどこか懐かしさが漂っています。
作詞はなかにし礼、作曲は平尾昌晃。
ふたりとも昭和の歌謡界を代表する大作家ですから、古き良き時代を感じるのは当然かもしれませんね。
ハーフの美人歌手が歌う切ない別れについて、歌詞を見ながら解説してみたいと思います。
聴く人を惹きつけるイントロ
アン・ルイスの声の特徴とは?
低音は大人の女性を感じさせるように響き、高音は少し甘えたように響くのがアン・ルイスの声の特徴です。
若さもあってか「グッド・バイ・マイ・ラブ」の高音はややファルセットボイス気味に綺麗に伸びています。
ロックに向いたシャウトするような歌い方よりも、素直な歌い方のほうがこの曲には合っていますね。
ハードにもソフトにも、どちらの歌い方もできる表現力を持ち合わせているということだと思います。
ストリングスとブラスの入ったイントロからすでに懐かしい雰囲気で、甘い思い出が蘇るような感じです。
聴く人をほんの何秒かで惹きつけるイントロはとても大切なパートですね。
ふたりの別れはすぐそこに
最後の瞬間まで彼に甘えたい
グッバイ・マイ・ラブ この街角で
グッバイ・マイ・ラブ 歩いてゆきましょう
あなたは右に わたしは左に
ふりむいたら負けよ
グッバイ・マイ・ラブ も一度抱いて
グッバイ・マイ・ラブ 私の涙を
あなたの頬で ふいているのよ
泣きまねじゃないの
出典: グッド・バイ・マイ・ラブ/作詞:なかにし礼 作曲:平尾昌晃
この曲はいきなり別れの場面から始まりますが冷たい感じではなくてロマンチックな雰囲気ですね。
並んで歩いているふたりですが、別れの時はすぐそこに近づいているようです。
街角とは交差点ではなくで、街外れの行き止まりでT字路になっているほうがこの場面に相応しいでしょう。
別れた後に男性が右へ、女性が左へと歩いていくのも自然な気がします。
右と左がメロディーにうまく乗るからと言ってしまっては身も蓋もありませんが、そんな気がするのです。
ふたつに別れた道はまっすぐに続いているので、振り返れば別れたばかりの彼が小さくなっていくのが見える。
だけど後ろを振り返らないというのはもちろん強がりなのでしょうね。
最後に涙を拭いてもらいたいと彼に身を寄せて甘える彼女のいじらしさ。
私の恋にさようならと歌っているのに、本当は別れたくないのです。
最後の行の歌詞にはそんな彼女の本音が表れていますね。
別れを甘い思い出に変える声の魅力
もう口に出せない彼の名前
忘れないわ あなたの声
やさしい仕草 手のぬくもり
忘れないわ くちづけのとき
そうよあなたの あなたの名前
出典: グッド・バイ・マイ・ラブ/作詞:なかにし礼 作曲:平尾昌晃
サビの部分に入るとアン・ルイスの歌の上手さや彼女の声が持つ力を実感できます。
別れたあとも彼女が感じる彼の感触、そしていちばん忘れたくない彼との甘い時間。
耳に残る声や手に残る暖かさはいつか薄れていくでしょう。
でも甘美な思い出は忘れたくても忘れられないはずです。
もう二度と口にすることはないかもしれませんが、心の中にいつまでも残る大切な彼の名前。
彼女にとってまだ思い出になるには早すぎるのです。
そんな切ない気持ちをアン・ルイスがあの声で歌うと甘い思い出に変えてくれそうな気がします。
悲しいシーンでも少しポジティブになれるような明るさが彼女の声にはあるのです。
別れを歌うから悲しい声でというわけではないのですね。
この曲のゆったりとしたリズムやメロディーは、かえって別れを切なく感じさせるところがあります。
それでも悲しみにくれる感じにならないのはアン・ルイスの声のせいではないでしょうか。