※1
音楽室に片想い
君がピアノを弾いていた
出典: 音楽室に片想い/作詞:秋元康 作曲:市川裕一
彼女を発見! 音楽室でピアノを弾いていました。
ここでタイトルの「音楽室に片想い」というフレーズが出てきます。
続く「君がピアノを弾いていた」という言葉から素直に読み取れるのは…
「音楽室に片想いの君がいた」という意味合いでしょう。
しかし、本当にそれだけでしょうか?
ピアノの音が紡ぐ彼女の世界
※2
ドアを開けずにその廊下で
ときめきながら
ずっと聴いてた
この時間だけは
絶対に僕のものだ
出典: 音楽室に片想い/作詞:秋元康 作曲:市川裕一
彼女を発見したといっても、音楽室のドアの窓越しだったようですね。
ドアを開けたら、彼女がピアノを弾く手を止めてしまうでしょう。
彼女はまったく意識をしていないけれど、流れる音が今の彼女と彼を繋ぐ唯一のもの。
偶然にもたらされた、二人だけの貴重で純粋な時間。
両想いなら互いの微笑みとともに過ごせる時間ですが、片想いゆえに切なさを伴います。
この部分だけでも既に、リアルさを帯びた美しい情景を脳裏に描くことができませんか?
彼女の指先から紡がれる音は、室内に満ち満ちています。
音符は風に乗り、ドアの隙間から彼のもとへ運ばれていきます。
そう、音楽室そのものが既に彼女の世界。
タイトルの「音楽室に片想い」は、彼女が紡ぎあげる世界への片思いという意味なのではないでしょうか。
みんな誰かを探しているのかもしれない
誰かを好きになることは
そばにいたいって思うこと
廊下を走る下級生は
誰を探しているのだろう
出典: 音楽室に片想い/作詞:秋元康 作曲:市川裕一
今の彼はとても幸せな時間を過ごしているはず。
でもやっぱり違うのです。
美しく満ちた彼女の世界に、彼は立ち入ることができません。
だって、片想いだから…。
そばにいたいのに、彼女の横でピアノを聴きたいのに、それは今の彼には叶わない。
下級生が慌ただしく廊下を走り抜けていったようです。
こんな夕方の、生徒も少なくなった時間に?
誰かに急ぎの用があって、探しているのかもしれません。
先生? 友だち? それとも彼のように、片想いの誰かさん?
彼の探していた人は、ドアを隔てた向こうにいます。
けれども彼女は彼がいることを知りません。
見つけても声さえかけられない探し人は、本当に「見つかった」といえるのでしょうか…。
そして、彼女が探しているかもしれない人は、一体誰なのでしょう。
「ないて」いるのは…?
リノリウムの床で靴が
キュキュッ キュキュッて鳴いているよ
出典: 音楽室に片想い/作詞:秋元康 作曲:市川裕一
靴がキュキュッと「鳴く音」は、この時の彼の心が「泣く声」とリンクしているのかもですね。
彼自身は自分の心が泣いているという自覚はないようですが…。
筆者は個人的に、この部分を読んで胸が詰まる思いがしました。
皆さんも覚えがありませんか? 上履きで校内の廊下を走った時のあの感触と音に。
友だちとはしゃいで走ったり、授業に遅れそうになってダッシュしたり。
あの独特の感触と音は、小学生~高校生時代にしか味わえないものかもしれません。
遠い日の想い出を蘇らせる音のひとつです。
掴めないきっかけ
急に切なくなって来た
君が弾くのを止めたから
何か言葉を掛けたいけど
そのきっかけが
わからないんだ
気づかれないように
教室に戻ろうかな
出典: 音楽室に片想い/作詞:秋元康 作曲:市川裕一
自分の心が泣いているのを自覚はしていない彼。
彼女がピアノを弾くのを止めたので、ここで声をかけようと思い立ちます。
しかし、どんな顔をしてドアを開ければよいのか?
どんな言葉をかけたらよいのか?
そもそも自分がなんでここにいるのか、突っ込まれたらどうしよう?
…やっぱ気づかれないうちに戻った方がよいかも。
一瞬のうちに、心中で様々な思いが交錯したことでしょう。
彼には申し訳ありませんが、想像するとくすっと笑いがこぼれてしまいます。
そして彼は、そんな自分の状況を鑑みて切なさを覚えるのでした。
笑っちゃってごめんね…。
彼は結局どうしたの?
この後、先述の歌詞引用部分※1と※2が1度ずつ歌われ、曲は終わります。
結局彼はどうしたと思いますか?
答えはこの楽曲にはありません。聴く人の想像に委ねられているのでしょう。
いろいろなパターンが考えられますね。
1. 彼女が気づき、いきなりドアをがらっと開けて「何してるの?」(一番怖いパターン…)
2. 彼女に気づかれないよう教室に戻り、大きなため息をひとつ。
3. 度胸だけで「ええい!」とドアを開け、彼女にびっくりされる。
切なく美しい短編小説のおしまいとしては、2.のパターンが一番相応しいように思いますが…。