大衆演劇のプライド

かまぼこ板も檜舞台も一緒?

梅沢富美男【夢芝居】歌詞の意味を考察!あなたの恋は筋書きどおり?夢のような男と女の初舞台を観劇しようの画像

梅沢富美男のお母さんは、彼に『かまぼこ板も檜舞台も一緒だ』と常々説いていたそうです。

かまぼこ板とは大衆演劇、檜舞台とは歌舞伎を指しています。

両親の後を継いで大衆演劇の舞台に立った彼に、プライドを持てと伝えたかったのでしょう。

『歌舞伎役者だけが偉いのではありませんよ』ということですね。

“下町の玉三郎”と呼ばれた彼は、余計に歌舞伎を意識するようになったのではないでしょうか。

女形としての画像と歌手としての画像を比べると、とても同一人物だとは信じられません。

“梅沢富美男”という男性を忘れさせるプロの役者の凄さが、舞台を見に訪れた観客を魅了するのだと思います。

そんな彼は歌でも大ヒットを飛ばして、大衆演劇の枠に収まりきれない活躍を見せるようになりました。

男らしい低音で歌う姿と、舞台で妖艶な女性を演じる姿のギャップも彼の魅力のひとつなのです。

印象的なイントロで始まる「夢芝居」は、男と女のどんな物語を歌っているのでしょうか。

恋愛にも筋書きがある?

先行きの見えない恋

梅沢富美男【夢芝居】歌詞の意味を考察!あなたの恋は筋書きどおり?夢のような男と女の初舞台を観劇しようの画像

恋のからくり 夢芝居
台詞ひとつ 忘れもしない
誰のすじがき 花舞台
行く先の影は見えない

出典: 夢芝居/作詞:小椋佳 作曲:小椋佳

梅沢富美男が迫力のある低い声で歌い出すと、既に芝居がかった感じさえしてしまいます。

澄んだ声で歌う爽やかな愛の世界とは違う、舞台の上で繰り広げられる濃密な物語が目に浮かぶのです。

彼の仕事場であり人生そのものでもある舞台に、恋模様をからめて歌う「夢芝居」は“恋”から始まります。

一筋縄ではいかない複雑な恋愛を思わせる最初の歌詞に、ロマンチックなタイトルが続く見事な出だしです。

舞台に臨む役者のように、二人のやり取りを心に刻む覚悟が2行目の歌詞に表れているような気がします。

役柄を完璧に演じ切るように、恋も自分の思い通りに運びたいという願望があるのではないでしょうか。

演劇にはもちろん脚本があって、その通りに役者は演じなければなりません。

役者の思い通りに物語が進むとは限らないのです。

現実の恋にはもちろん筋書きなどありませんから、この先どうなるのかは分かりません。

“花舞台”という言葉は装飾に彩られた美しい世界を想像させてくれますが、単純に明るい世界とは違います。

先行きの見えない恋に影があるのは、舞台を照らすスポットライトのせいなのでしょう。

二人を繋ぐ細い糸

駆け引きのある大人の恋愛

梅沢富美男【夢芝居】歌詞の意味を考察!あなたの恋は筋書きどおり?夢のような男と女の初舞台を観劇しようの画像

男と女 あやつりつられ
細い絆の 糸引き ひかれ
けいこ不足を 幕は待たない
恋はいつでも 初舞台

出典: 夢芝居/作詞:小椋佳 作曲:小椋佳

1行目の歌詞には、主役は自分のはずなのにまるで誰かに操られているようなもどかしさが表れています。

ここで描かれているのは初々しさとは無縁な、駆け引きのある大人の恋愛です。

二人を繋ぐのはいつ切れてしまうかもしれない、目に見えない細い糸なのでしょう。

お互い好きなのに相手を思い通りにしたくて、その糸を引き合っているのです。

ただ強引なだけでは恋は上手くいかないので、強く引いたり緩めたりする様子はどこか滑稽でもあります。

大人になっても恋をする時はいつも初心者に逆戻り。

舞台と同じように、始まってしまった恋を途中でやめるわけにはいきません。

初めて舞台を踏む役者が緊張するように、恋は大人の男も緊張させるのです。

恋した女も役者だった?

素顔が男を惑わせる

梅沢富美男【夢芝居】歌詞の意味を考察!あなたの恋は筋書きどおり?夢のような男と女の初舞台を観劇しようの画像

恋は怪しい 夢芝居
たぎる思い おさえられない
化粧衣装の 花舞台
かい間見る 素顔可愛い

出典: 夢芝居/作詞:小椋佳 作曲:小椋佳

出番を終えた役者が楽屋で濃い目の化粧を落とすと、表れた素顔との差に驚くかもしれません。

プロとして演じた夢の世界と、普通に生きる現実の世界とのギャップです。

燃える想いに身を焦がす男の心には、ままならない現実と淡い夢のような芝居の世界が渦巻いています。

恋した女は彼と同じように、舞台の上に生きる人なのでしょう。

スポットライトを浴びる舞台の上で脚本に沿って演じる恋物語と、筋書きのない現実の恋。

化粧をして他人になりきる役者同士の恋愛だからこそ、駆け引きがあるのではないでしょうか。

自分が恋をしているのは役者としての彼女なのか、それともひとりの女としての彼女なのか。

化粧を落とした彼女が時折り見せる素の表情が、彼を惑わせます。

芝居とは違う現実の恋