不倫の関係でも主人公の想いは純愛
長過ぎる一日をもてあまし 彷徨えば
哀しいくらい 自由なの
街の灯が 夕闇に点り始める頃に
あなたもきっと感じてる
ほろ苦い 昨日のキスの その余韻を
出典: マンハッタン・キス/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
不倫の「恋」は、会えない時間が長いですよね。
「会いたい」気持ちを持て余しながら一日を過ごすのはあまりにも切ないことです。
その分、「カラダ」は自由ですが、「心」は自由ではありません。
常に「恋人」への想い、「恋人」を自宅で待っている同じ「孤独な誰か」に対する嫉妬。
夕闇がせまるころ、会えなかったつらさが心に影を落として一日が終わろうとするのを感じる。
昨日交わしたキスの余韻を思い出しながら、会えない恋人のことを想う。
愛しい人に会えなかった日は、夕暮れのこの時間が特に寂しいものです。
この楽曲では、直接的な言葉を使わずに、その心情を的確に示す手法がとられています。
また、主人公はその寂しさを紛らわせることが出来る他の手段を持っていなかったことが窺えます。
これは90年代初頭のバブルが弾けた後の空虚な感覚もそれなりに影響しているでしょう。
今ではネットが発達したこともあり、恋愛をしなくても大人が自由を謳歌するための娯楽の手段は増えました。
しかし、当時は大人が楽しめる娯楽といえば、酒かタバコか異性との恋愛かといった辺りだったのです。
パソコンやインターネットはまだ軍事用として一部の人間だけが扱っており、一般層には普及していません。
そうした時代性というか90年代初頭の満たされているのにどこか虚しい空気がよく表現されています。
後悔と不倫関係を続けることへの不安 でも・・・
どうして あなたじゃなきゃ駄目
声かける人は たくさんいるのに
できるなら 知り合う前の私に戻って
置いてきた 夢 探したい
いつの日か 遠い思い出だと笑い合える
そんな時が くるのかしら
明日さえ手探りで 生きるふたりにも
出典: マンハッタン・キス/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
愛してはいけない人を愛してしまい、つらい毎日を送ることに疲れた主人公。
他の人を愛した方が、ずっと楽なのに、もっと幸せになれるのに。
できれば、あの人と知り合う前に戻りたい。
出会わなければよかったのに…。
頭ではわかっていても、気持ちは別のところにあるのでしょう。
人を愛するのに、理由も理屈も必要ありません。
条件なんてどうでもいいんです。
ただただ、その人が好きで好きでたまらない。
ただそれだけなんですよね。
しかし、当時はこれで良かったとしても、今の時代に出そうものならばバッシングは避けられないでしょう。
バブルの余波が残っていたとはいえ、当時の恋愛至上主義がどういった価値観であるかが顕著に現われています。
最後の英詩に込められた想い
Till I hear you say you love me
Don't disturb
出典: マンハッタン・キス/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
「あなたから『愛しているよ』という言葉を聞くまでは、誰にもこの恋の邪魔はさせないわ」
和訳すると、こういうニュアンスでしょうか。
映画では、不倫の恋に決着をつけた主人公ですが、楽曲の中の主人公は、まだ決心がつかないようです。
報われない愛に苦しむ主人公は、不倫が決して良いことだとは思っていません。
都合の良い女になってしまっていることも感じ取っているのでしょう。
男が家に帰っていくとき、背中にすがりたい想いを抑える。
帰ってしまったあと、広く見える部屋に一人残される寂しさ。
この想いを断ち切るために、少し勇気を出せば…
それは、十分に分かっているのです。
でも、きっぱりと別れることが出来ない。
なぜなら、愛される喜びを知ってしまったからです。
高度経済成長の負の側面
この曲は恋愛至上主義全盛期、すなわちトレンディドラマ全盛期だからこそ成立した価値観ではないでしょうか。
不倫は悪いことと分かっていながらも「赤信号みんなで渡れば怖くない」の理屈で正当化しているともいえます。
その背景にあるのは社会的なシステムの問題、すなわち高度経済成長がもたらした負の遺産ではないでしょうか。
大量生産大量消費の考えは日本だと80年代に始まり、衣食住の全てが一定水準以上にまで上がるというメリットがありました。
しかしそれは一方で飽くなき欲望を際限なく生み出すというデメリットもまた表裏一体としてあるのです。
「物質的に豊かでも精神的に貧しい」といわれるようになったのもこの時代の辺りからでしょう。
それは恋愛にも反映され、貧乏な時は一人を愛することすら何かしらの困難が伴う程に大変でした。
しかしそれが豊かさを手にしてしまうと、今度は一人を愛するだけでは物足りず不倫してしまうのです。
恋愛や性欲をいわゆる消費感覚で楽しんでしまうことの危険性を示唆している、実に鋭い批評性をこの歌は持ち合わせています。
「マンハッタン・キス」コードはこちら
導入部分は優しく
C ConE
Don't disturb
F Dm7onG Dm7onF Em7 Am7
閉ざされた ド アの中 だけが
Dm7 Dm7onG G7
私になれる 場所
C ConE F Dm7onG Dm7onF Em7 Am7
ここで あなたが見せる 優しさ に
Dm7 Dm7onG Dm7onF
偽り はない けど
出典: マンハッタン・キス/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
ここからは、一番伝えたいことを歌うポイントに入っていきます。
でも、テンポも比較的スローなので演奏しやすいかもしれませんね。