「SAKAMOTO」って誰
2015年8月19日発表、GReeeeNの通算25作目のシングル「SAKAMOTO」。
まず「SAKAMOTO」とは誰なのかが議論になりました。
公式MVでそれが現代に生きる坂本龍馬という設定であることが判明します。
坂本龍馬の短くも濃密な人生と成長することを父母に告げる歌詞がリンクしているのです。
色々と謎が多く歴史的な評価が定まらない坂本龍馬。
司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」の脚色を史実と勘違いする方が多くいました。
「司馬史観」と呼ばれるフィクションと歴史の取り違えが長く続くのです。
史学的な検証を経て近年ではついに歴史の教科書から坂本龍馬の名前は消えました。
それでも坂本龍馬の生き方に憧れる人々は跡を絶ちません。
彼の生き方と現代を生き抜くことの両面から「SAKAMOTO」の歌詞の謎に迫ります。
実際の歌詞をご覧いただきながら解説いたしましょう。
魂の解放のために
目の前の山と海を越える
あの山越えたら なりたい僕に逢える?
あの海越えたら なりたい私に逢える?
私の心よ もっと自由になれ
これから始まる 僕だけのストーリー
出典: SAKAMOTO/作詞:GReeeeN 作曲:GReeeeN
語り手は男性の僕と女性の私です。
交錯するように主語が変わるのが「SAKAMOTO」の魅力でしょう。
男性であっても女性であってもどちらにもリスナーの共感を得たい。
GReeeeNのそんな制作意図がうかがえます。
山も海も様々な土地にありますが前に進むためには目の前の障壁を乗り越えてゆくしかありません。
希望の山や海ではなく、私たちはまず目の前の山と海を越えてゆかなければならないのです。
その先になりたい自分が待っているのかどうか。
そもそも自分というものは待っていてくれるものなのか。
GReeeeNは目の前の障壁を越えて成長することでなりたかった自分になれると歌います。
障壁を超えてゆくこと
坂本龍馬が追い求めたものは当時の藩というものを超えることで獲られる自由でした。
封建時代は領主への忠誠が武士階級にとって生涯を賭けるものです。
しかし坂本龍馬は土佐藩からの脱藩を謀ります。
彼は藩内で罪人とされようが自分の信念を貫くためにこの計画を遂行しました。
当時の日本社会のことですから脱藩しても自由を獲られる訳ではありません。
それでも自由とは「自らを由(よし)とする」という意味ですから信念に従って生きることが第一歩です。
GReeeeNは坂本龍馬のこうした行動力に敬意を払います。
そして今の時代で心を解き放つことを推奨するのです。
現代は封建時代と較べると格段に自由になりました。
しかし学園や職場、そして家庭で見えない足枷のようなものがまだまだ存在します。
女性には女性の不自由が、男性にも男性の不自由があるのです。
こうした障壁を越えてゆくことで本来の自分にたどり着けるかもしれない。
自分の人生を本当に自分のものだけにするためにはそれ相応の努力が必要なのです。
GReeeeNの「SAKAMOTO」の主題はこの歌い出しの歌詞に凝縮されています。
「可愛い子には旅をさせよ」
父母が心を寄せる
父さんが言った『お前ならやれる、人生は短いんだ旅をしろ。』
母さんが言った『あなたなら大丈夫、父さんの事は、心配しないで。』
出典: SAKAMOTO/作詞:GReeeeN 作曲:GReeeeN
「可愛い子には旅をさせよ」を歌詞にしたらこのようになりましたという感じでしょう。
坂本龍馬の人生はわずか31年で本当に短いものでした。
暗殺という本人の意思によらない形で夭逝します。
坂本龍馬の人生に影響を与えたのは父の後妻の家から伝えられた物事だとされています。
彼が実母とどのような関係を築いていたかは問われません。
義理の母親が立派な方でしたのでそれで十分だったのでしょう。
こうした細かい状況は「SAKAMOTO」ではさすがに描かれません。
本質は父母が息子・娘の成長を思う気持ちです。
子どもの成長のためには旅が必要なのだという考え
坂本龍馬を強くしたのは当時の社会の子育てに関するこうした思想なのです。
現代では過干渉ともいえる家庭教育が普通でしょう。
GReeeeNはその点で先人に倣ってみることを推奨します。
不当な支配からの超克
坂本龍馬の人生を支え続けたのは姉の乙女だといわれています。
GReeeeNの「SAKAMOTO」にはこの姉・乙女らしき人物は登場しません。
何もかもモチーフを坂本龍馬の人生に求めた訳ではないのでしょう。
また歌詞の登場人物を多くすると主題に向ける焦点がぼやけるのです。
そのため姉・乙女は登場しません。
しかし彼女の気持ちをこの歌では父母が代弁しています。
家族に理解者がいることによって私たちはその成長を促されるのです。
リスナーの中には家族の理解が得られないことに悩んでいる方も多くいらっしゃるはず。
その解決策はやはり家庭からの自立を早く進めることではないでしょうか。
つまりやはり旅に出るくらいの心持ちが必要とされるのです。
封建時代は領主の意思が絶対でした。
しかし坂本龍馬はこうした桎梏を越えて人生を切り拓いてゆきます。
現代では家族・学園・職場が領主の代わりの役目を果たしているかもしれません。
それでも不当な支配を感じたのならば多少抗ってでも自由を求めて成長して欲しい。
GReeeeNが「SAKAMOTO」に込めた想いはそうしたものでしょう。