識ることの怖さ

【大河の一滴/桑田佳祐】歌詞の意味を徹底解説!渋谷が舞台の歌詞が切ない!「女」と主人公の関係は?の画像

「あの頃 夢見た場所はどんなトコ?
愛しい誰かの腕の中でしょうか?
柔肌重ねて舐(ねぶ)る夏の夜
初心(うぶ)な恥じらいはぼんやりと
暗渠に溶解(と)け出していきました

出典: 大河の一滴/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐

若い頃の理想や夢は儚いもの。

夢は手に入れた瞬間に満足して捨て去って生きてきたような気がします

肉感的な愛の交歓も気付けば虚しいものになってしまうもの。

純真だった心もいつの間にか余計な脂肪を付けてしまいます

大人になるというのはそういうものといい切ってしまえるのが悲しいことです。

でも渋谷の街では誰も純真な心を維持できないでしょう。

渋谷の地下は暗渠になっています。

暗い世界に流れる水は何色でしょう

きっと澱んでいる水が流れているのでは。

物事を識ること自体は悪いことではないはずです。

しかし何も知らなかった若い頃に戻れたならばいいなと思うこともしばしあります。

若い頃なりの感性はやがて歳とともに剥げ落ちてゆくのです

喪失したユートピア

あの頃の目的地が今は消えた

【大河の一滴/桑田佳祐】歌詞の意味を徹底解説!渋谷が舞台の歌詞が切ない!「女」と主人公の関係は?の画像

(男) 宮益坂下って
(女) 小さな御嶽(みたけ)神社…
(男) ラケルで
(女) オムレツ
(男) …行ったよね
(女) …あったよね
(男) そのあと、ユートピア
(男)(女) 憶えてる

出典: 大河の一滴/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐

この曲が発表されたときこの歌詞の固有名詞の意味が今ひとつ分からないという意見がありました。

宮益坂」「御嶽神社

この辺りは渋谷に行かれる方はよく分かるでしょう。

「ラケル」は上述の通り宮益坂にある老舗の洋食店です

「ラケル」はチェーン展開していますので、そうか宮益坂にあるのかと思えるはず。

オムレツがやはり美味しいのだなと予想できます。

問題は「ユートピア」です

何となく想像でどんな施設なのかは分かりそうなもの。

しかし現在、渋谷に「ユートピア」なる屋号の施設はありません

有志が古地図で探したところ1987年の地図に記載がありました。

昭和の終わり頃まであった「ホテル・ユートピア」

渋谷区円山町のホテルです。

ホテルとはいえ普通の宿泊施設とは違います。

桑田佳祐が実際に通ったのでしょうか。

となると原由子との結婚と重なるのかどうかでこの曲が「不倫ソング」になりかねません。

しかしまったくのフィクションである可能性も大ですので詮索するのはよしました。

録音でこの掛け合いをしている女性は今村明美さんです

検索すると劇団スーパー・エキセントリック・シアター(S.E.T.)の今村明美さんが登場します。

S.E.T.所属ならば事務所が桑田佳祐と同じはずです。

ベテランの女優さん。

いずれにしても若い女性ではなく、桑田佳祐と同年代の女性が昔を懐かしんでいるという設定です

人は誰しもが「大河の一滴」

大人の男になる成長物語が本質の歌

【大河の一滴/桑田佳祐】歌詞の意味を徹底解説!渋谷が舞台の歌詞が切ない!「女」と主人公の関係は?の画像

逢わせて 咲かせて 夢よもう一度
渇いた心に命与えて
酔わせて イカせて ダメよそんなこと
野暮な躊躇(ためら)いも今はただ
深い谷底に消えました
大河の一滴になりました
黒の円熟が薫りました

出典: 大河の一滴/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐

クライマックスの歌詞です。

上述の歌詞のリフレインに新たな言葉を続けて紡いでいます。

「ラケル」のそばの側溝に捨てた想いは渋谷の谷底にもう一度葬られるのです

渋谷は名前の通り谷底に街が栄えています。

渋谷のスクランブル交差点の人並みは大河のようです。

自分はその「大河の一滴」、些細な存在になってしまったと歌います

桑田佳祐の存在が些細だとは誰も思わないでしょう。

それでも自分は「大河の一滴」に過ぎないと自覚する真っ当な心の持ち主が桑田佳祐その人です。

あまりに本人に寄せすぎた解釈かもしれません。

それでもソロ作品での桑田佳祐の歌詞の傾向を考えると素直にそう歌っていると思わざるを得ません。

ラストの「黒の円熟」という箇所はUCC BLACK無糖のCMのために付け加えられました

大人の無糖コーヒーですから「黒の円熟」です。

匂い立つブラック・コーヒーは大人の男の嗜好品。

CMのために付け加えたとはいえ少年が成人男性になるにつれての成長なども感じさせられます。

「大河の一滴」の仮のタイトルは上述の通り「いささか自意識過剰気味な男」でした。

そんなエゴイストが自分は「大河の一滴」に過ぎないと自覚するまでの成長物語がこの曲の本質です

「大河の一滴」されどその一滴がなければ大河もまた生まれえません。

作家・五木寛之のベストセラーに「大河の一滴」があります。

桑田佳祐はこの著作をどこかで意識しているでしょう。

私たちの生きる指針のようなものが書かれた著作です。

一方で桑田佳祐の「大河の一滴」も人生の縮図のようなものであります

好きなラインはいっぱいあるのですが、子どもたちの未来について書いた箇所をまた読み返したいです。

どんな大人になろうとも子どもたちに対しては無責任ではいられない。

語り残してゆかなくてはならないことを書き切りたかった桑田佳祐の想いが透けます。

渋谷の街は再開発で目まぐるしく変わり、かつてのユートピアは本当になくなりました

追憶にばかりしがみつくことはできませんが想い出の中に生きる人と会話しながら今を生きること。

生きている渋谷の街がいつまでも逞しく健在であって欲しいです。

あの街の「大河の一滴」に過ぎない私たちにできることは何だろうという課題を抱いてこの記事を終えます。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEで振り返る桑田佳祐の軌跡

「大河の一滴」を収録するアルバム

OTOKAKEには桑田佳祐の関連記事がたくさんあります。

中でも「大河の一滴」が再収録されたアルバム「がらくた」をご紹介

収録曲を徹底解説いたしました。

ぜひご覧いただきたいです。

6年6ヶ月ぶりに桑田佳祐がアルバムを発売しました。2017年にソロデビュー30周年を迎えた桑田佳祐の「がらくた」にはどんな曲が入っているのでしょう?今回は「がらくた」の楽曲リストをまとめて、注目の楽曲を見てみましょう。

無料で音楽聴き放題サービスに入会しよう!

今なら話題の音楽聴き放題サービスが無料で体験可能、ぜひ入会してみてね