アーティストとファンが一体になってコール&レスポンスをするような曲を作っていないのは明らかです。
言葉の溜め、声の高さやイントネーションを真似ようにも真似できないのは、アフロの歌だから。
アフロの感情が言葉と音を作っているから、同じ感情を持ちえないリスナーは真似すらできないのです。
しかしそれこそがアフロが求める「本気」の歌なのではないでしょうか。
心をこめて歌います!というありふれたフレーズを簡単に口にできなくなってしまいますね。
アフロの本気の歌で心を揺さぶられたリスナーは笑顔でいられるはずがありません。
彼の鋭い言葉が胸に突き刺さり、自分は本気で生きているだろうか?と後ろめたい気持ちになるでしょう。
本気で生きてみろ、というアフロの煽りはリスナーを苦しめながら解放への手引きもしているのです。
愛が全てか それは本当か
夢を叫んだって 現実は黙らないじゃないか
「信じてる」なんてお前簡単に言うなよ
他人も自分も裏切ってきただろ
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
愛は世界を救うのだと歌い、戦争のない世界を夢見て世界中に愛の手を差し伸べるのが、お手本のような善行です。
愛さえあれば結婚できる、頑張れば夢は叶うといった「綺麗事」もこの歌詞には含まれているでしょう。
しかし、善行を続けても綺麗事を歌っても世の中は変わらない。それはアフロのみならずリスナーも感じています。
誰かの夢の邪魔をする者もいるでしょう。愛で結ばれたのに愛が消えてしまう夫婦だっています。
愛や夢といった曖昧な概念にこだわっているようでは何も変わらない、といった意味に捉えました。
全ては自分の意志で決めること
諦めた記憶こそ酷く鮮明で
立ち上がる俺の足を掴んで離さない
変わらなきゃ変わらない そんなこと分かってる
決意のケツ引っ叩く 強く
もうスヌーズは無しだ 一発で目覚めろ
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
MOROHAは活動歴二桁年数であり、様々なバンドと対バンをして数多くのライブをこなしてきました。
その中で「挫折」した回数はどれほどだったのでしょうか。
残酷な現実に打ちひしがれた挫折の痛みは消えることがありません。
同じ痛みを味わうかもしれないのにそれでも行くのか?と挫折の記憶が彼を引き止めます。
諦めきれずに立ち上がり、すぐに挫折し、また立ち上がる。それを繰り返してきたのでしょう。
しかし次こそは「挫折をしても腰を下ろさず突っ走れ!」と歌っているようです。
豚は死ね 狼は生きろ
おお神よ 俺たちに慈悲とご加護を
なんて言わねえ
頼むから 邪魔だけはするな
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
肥育されて甘やかされている者は淘汰され、飢えと戦いながら自ら狩りに出て走り続ける者が生き延びる。
アフロは後者でありたいと願っています。
運や神頼みでうまくいく世界ではないことを身をもって知っている彼は、運に「不運」が含まれることだって知っています。
降りかかる運が「不運」だったなんて笑えません。
一人じゃないよ なんて気休めを蹴飛ばして
一人でもやれ って歌を叫べ
再生ボタンは 奥歯の上にある
噛み締めた時だけ鳴り響く音楽
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
アフロの歌は、アフロにしか歌えない。これは前の歌詞でも語られていました。
彼は感情に共感してもらうのではなく、感情を見せつけるために歌うのでしょう。
誰かに「歌って」と頼まれて歌うのではありません。誰のコントロールも受けません。
自分の感情が抑えきれなくなったとき、自分の意志で歌うのです。
歌う先に何が見える?
何処へなぜどうして 何をもってそこまで
いつまで 誰のため 何のために
追いかけ続ける 問いかけの答え 答え
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
体中が炎に包まれているような激しさで歌うアフロの姿を見ると、この歌詞のような疑問を抱きます。
きっとアフロ自身にも終着点が見えていないのです。
有名になるため?お金を稼ぐため?この先の歌詞を読み解いていきましょう。
失った自信と得た自信
さあ ディスるならディスるで殺す気でこいよ
ちゃんと狙え 俺の心ならここにある
傷つくことさえも誇りに思う
それは人間である故 真剣である故
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
自分の音楽を否定されることに対して、アフロは怒りを感じません。
ただしその否定が「本気」であることが条件です。
誰かの意見の真似事ではなくその人自身の感情ならば、アフロは丸腰で受け止めます。
なぜなら、アフロの音楽や感情を真剣に読み取ろうとした結果生まれた否定だからです。
そこにはアフロが気づかない、前に進むためのヒントが隠されているかも分かりません。
通すのは筋じゃなくて 何よりも意地だ
革命のページは中指でめくるんだ
生ぬるい現場には冷や水をぶっかけろ
反省はあったって 後悔にするなよ
出典: 五文銭/作詞:アフロ 作曲:UK
アフロは歌詞を書くときに、誰かを感動させよう、オーディエンスを盛り上げようと思って書いてはいないはずです。
感情の端々を飾りつけて整えるのではなく、感情をそのまま書きなぐります。
もしも感情を偽ったり、借りてきたような言葉を使ってしまえば後に残るのは「後悔」です。
後悔は何も産まず、ただただ彼の足を引っ張るだけ。
偽らずに素直な感情を歌ったことで誰かを傷つけてしまったら「反省」し、次は繰り返さないでしょう。