一方で意地が悪いこの娘は県大会での成績が素晴らしかったのでインターハイにまで進みます。
季節の設定は夏です。
夏という季節は毎年過酷になってゆきます。
ですから夏に高校生が運動するっていったいどうなのかという議論が増えました。
インターハイに限らず夏の甲子園の高校野球などの議論を想い出してください。
「気になるあの娘」は2010年に発表された楽曲ですから議論をいち早く先取りしています。
この国の夏にあって熱中症という症例は年々深刻な健康問題・社会問題になりました。
ここのところの日本の夏は過酷すぎます。
温度だけでなく湿度も高いので発汗機能に異常が生じるのでとても恐ろしいです。
そんな恐ろしい熱中症ですが「気になるあの娘」では意地が悪い娘の美しさを表現します。
若く黒々しい髪が真夏の日射光線を跳ね返す描写が青春の美しさをリスナーに伝えるのです。
「気になるあの娘」が老いないことに鬱屈としている同じ年の夏に意地が悪い娘は輝いています。
語り手の想い入れはいったいどちらにあるのでしょうか。
そもそもこのふたりの女子高生は本当に別人なのかも分からなくなってきます。
相対性理論のマジックが炸裂しているのです。
ノンストップで世界を過ぎる
未来的なアイテムがいっぱい
タクシー 飛ばしてよ九龍からニューヨークヘ
恋する心を止めないで
サイボーグ・ペーパードライバー 回してハンドル
震える体をあたためて
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
ギアを加速させるような歌詞で正に世界中を駆け巡る歌詞に胸が躍ります。
九龍は長らくイギリスの植民地であった香港の都市です。
ニューヨークに関しては説明不要でしょう。
もちろん九龍からニューヨークまでタクシーで行くことはできません。
このくらいの不条理を気にしていては相対性理論の歌は楽しめないです。
ただし、多国間をタクシーで行くという設定にある疾走感の大事さには気付いていたいもの。
九龍からニューヨークまで行くには様々な都市をノンストップで横切ります。
語り手が恋する女子高生たちへの気持ちにある地球を跨ぐほどの広く大きな愛も表現されるのです。
ところがこのタクシーを運転しているのが人造人間です。
なおかつペーパードライバーであるのですから、この歌詞から何かを論理的に引き出そうなんて無理。
九龍もニューヨークも発展した未来都市の趣があります。
日本の地方都市を例えに挙げるとこの歌詞の先進性は台無しになるのです。
またこのタクシーを運転するのが生身のおじさんだったら失望します。
過酷なドライブになるので人造人間である方がよいでしょう。
めちゃくちゃな発想に思える歌詞も、未来的であることについては一貫しているのです。
意味の臨界点
「あの娘」はいったい誰?
気になるあの娘の想いは巡る
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
意地悪あの娘の頭の中は
ふつう ふつう わりと普通
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
もはや意味など崩壊してしまい、ナンセンスであることに一直線であることが気持ちよくなります。
語り手はどうやって「気になるあの娘」の脳内を覗いたのでしょうか。
ドイツのロック・バンド「Guru Guru」との関係はあるのかなど色々と気になります。
若いながら老いもせずに死なずにいることを考えていたら思考は同じところを巡り続けるでしょう。
彼女のこの先の人生が心配になります。
「気になるあの娘」の気になるところは不安を呼びそうな思想にあるのかなどとも解釈できるのです。
またリスナーを悩ませるのが「気になるあの娘」の性格であったノーマルなところ。
その描写を意地が悪いこの娘にも適用する点です。
「気になるあの娘」も意地が悪いこの娘も根は素直でノーマルということでしょうか。
はたまた「気になるあの娘」も意地が悪いこの娘も同一人物なのかなど解釈に迷うのです。
相対性理論はこの点に関してヒントをくれません。
むしろリスナーを戸惑わせることが彼らの狙いであるような印象が残ります。
解説文であるこの記事では「あの娘」と「この娘」で区別いたしました。
しかし実作の方ではふたりとも「あの娘」で統一されています。
語り手は「あの娘」に恋しているのですから、おそらく同一人物説が濃厚です。
どちらの性格もひとりの女子高生のことであると思うと、様々な色を持つ「気になるあの娘」がより魅力的。
ナンセンスな言葉を紡いでいるようでいて、素敵な女の子を描いたのだと気付かされます。
「気になるあの娘」は3分ソング
一番運転が得意なドライバー
タクシー 飛ばしてよ香港からセンター街へ
恋する心が止まらない
最後のF1ドライバー 踏み込んでアクセル
震える体を抱きしめて
タクシー 飛ばしてよ九龍からニューヨークヘ
恋する心を止めないで
サイボーグ・ペーパードライバー 回してハンドル
震える体をあたためて
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
次のタクシーは香港から渋谷のセンター街までです。
同じ東アジア圏ですからいつかこんなアクロバティックな旅行や交通が可能になって欲しいもの。
2010年のセンター街は今よりももっと日本で一番の繁華街だったでしょう。
とはいえセンター街というのは思いの外に小さな通りです。
人ばかりあふれていますが特にこれという名物のようなものがない不思議な繁華街でしょう。
この空虚さこそが現代日本の象徴であるのかもしれません。
次にタクシーを走らせるのはF1ドライバーです。
F1も今や衰退の一途をたどっています。
2010年にはすでに娯楽としては失速していました。
しかしクルマを運転するのであれば彼らほど適任の人たちはいません。
語り手の男子学生の恋は止まることを知らずに街から街をゆくのでしょう。
相当なスピード運転でしょうが、興奮する体を抱きとめてもらいたいと語ります。
青春期の恋は性急であること
いよいよクライマックスに到着いたしました。
この箇所は一字一句同じリフレインになります。
語り手の恋心は留まることを知りません。
香港の魔窟都市・九龍からアメリカの摩天楼を抱いたニューヨークまで恋のタクシーはノンストップ。
運転はまた人造人間のペーパードライバーに預けます。
クルマの排気熱で体を温めてと歌うのです。
相対性理論の「気になるあの娘」はわずか3分2秒の楽曲。
典型的な「3分ソング」であります。
語り手が「あの娘」に抱いた恋心を障害物なく発車させる箇所で楽曲が終わるのです。
相対性理論が「気になるあの娘」で第一に大切にしたのは青春期の恋の性急さを歌う疾走感でしょう。
「気になるあの娘」について色々触れた歌詞ですが、その原動力は語り手の男子学生の恋心。
青春期の男子学生の恋心は一直線であることが特徴です。
九龍からニューヨークまでタクシーを走らせる燃料は恋の力なのでしょう。
青春文学を一編読んだような清涼感があります。
相対性理論はそのときどきのメンバーの総力で作詞作曲するユニット。
「気になるあの娘」でもグループ的な作業で歌詞を書いたのでしょう。
メンバーの気持ちは青春と恋を描きたいというくらいしかコンセプトはなかったはずです。
ですからナンセンスでありちぐはぐなのですが、リスナーはそこにある軽さを求めています。
「気になるあの娘」
少女の少女性が様々に煌めいていて眩しい夏の歌。
私たちリスナーは相対性理論の狙いに見事にハマりながらリピートします。
もっと聴いていたい「気になるあの娘」。
もっと知りたい「気になるあの娘」。
もっと愛したい「気になる相対性理論」。
3分ソングでもできることはいっぱいあるようです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。