松本隆作詞「スローなブギにしてくれ」

1981年のロッカバラード

南佳孝【スローなブギにしてくれ】歌詞を徹底解釈!人生はゲーム?ハードボイルドな男の口説き文句とはの画像

1981年1月21日発表、南佳孝のシングル「スローなブギにしてくれ」

胸に沁みるようなロッカバラードがいつまでも記憶に遺る作品です。

ハードボイルドな男の愛を描いたのは作詞家の松本隆

松本隆は南佳孝をこの世界に送り出した人といってもよいでしょう。

南佳孝のファースト・アルバムをプロデュースした過去があります。

同名映画はいわゆる角川映画のうちの一作です。

あまり芳しいヒット作ではありません。

名匠・藤田敏八監督作品ですから決して悪い内容ではないのですが。

若き日の浅野温子の姿が目に焼き付いている方もいらっしゃるはずです。

原作は当時の人気作家であった片岡義男の小説

この曲は一方でホンダ・シビックのCMソングに採用されて当時は頻繁にお茶の間に流れました。

歌詞の中には「スローなブギにしてくれ」という言葉は一切登場しません。

それでも南佳孝の第一声を聴けば「ああ、あの曲か」と記憶が鮮明に甦るはずです。

松本隆がハードボイルドな世界観を描ききったこの名曲歌詞を改めて紐解いてゆきます

ぜひご賞味ください。

死んだ友人へ捧げるナンバー

ハードボイルド小説のよう

南佳孝【スローなブギにしてくれ】歌詞を徹底解釈!人生はゲーム?ハードボイルドな男の口説き文句とはの画像

Want you 俺の肩を抱きしめてくれ
生き急いだ男の
夢を憐れんで

出典: スローなブギにしてくれ/作詞:松本隆 作曲:南佳孝

第一声から心を鷲掴みにされる歌い出しです。

サウンドはロックンロール勃興期のようなバックトラック。

ロッカバラードの基本を押さえたサウンドです。

ハードボイルドな世界観ですから一人称は「俺」になります

ちなみに近年の村上春樹訳のフィリップ・マーロウは一人称が「私」です。

元々、ハードボイルド小説の元祖であるレイモンド・チャンドラーの作品は意外と上品

ハードボイルドはときにアウトローを描きます。

しかしアウトロー小説とハードボイルド小説は区別されるのです。

この「スローなブギにしてくれ」の主人公の「俺」はいささか自己中心的な愛を歌います

それでも極端にアウトローな存在ではないようです。

自分の美学をしっかり持っています。

この夜はアルコールに溺れているようではありますが依存症まではいっていません。

名作「ロング・グッド・バイ」との近似性

南佳孝【スローなブギにしてくれ】歌詞を徹底解釈!人生はゲーム?ハードボイルドな男の口説き文句とはの画像

この夜、主人公の「俺」は昔の友人の死を嘆いているようです

こうした重い主題を最初にさらっと書くのが松本隆らしいところでしょう。

映画「スローなブギにしてくれ」でも大切な友人が亡くなります。

米兵たちの街で割と自由な雰囲気で知られる東京の福生を舞台にした青春映画です。

片岡義男による原作小説が発表されたのはベトナム戦争終結直後。

映画は1981年ですから若干のタイムラグはあります。

それでも若者たちにとって自由な街の雰囲気は出ていたように想い返すもの。

福生周辺は独自の文化を築いています。

ハードボイルド小説の聖典「ロング・グッド・バイ レイモンド・チャンドラー」も友情の話でした

この友人・テリー・レノックスは小説の途中で亡くなるのです。

そこに主人公のフィリップ・マーロウとある女性が絡む構造も似ています。

「スローなブギにしてくれ」はこうしたハードボイルドの王道を踏襲したのでしょう。

死んだ友人を懐かしんでアルコールに浸る夜

何やらたくさんの物語が始まりそうです。

先を見てみましょう。

今夜は何をするにもスローに

福生のバーでの出逢い

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Want you 焦らずに知り合いたいね
マッチひとつ摺って
顔を見せてくれ

出典: スローなブギにしてくれ/作詞:松本隆 作曲:南佳孝

とてもロマンチックな男女の出逢いを描いています。

松本隆の歌詞は「きざ」になりきらない程よい軽さもあるので安心できるのです。

タイトルの「スローなブギにしてくれ」と同じように交際するのもスローなテンポでいこう

主人公の「俺」の美学が素敵です。

ハードボイルド小説では割と軽く男女の関係になりがち。

「スローなブギにしてくれ」のユニークさはこの慎重さにあるのかもしれません。

ライターで簡易に火を灯すのではなくわざわざマッチを擦るのもスローさの表現でしょう

実際の曲もスローなブギなのですからどこまでもゆっくりであることのコンセプトが貫徹しています。

映画を観た人は小悪魔的な若き日の浅野温子の凛とした顔を思い浮かべるはずです。

素敵な出逢いですし舞台が福生のバーというのも雰囲気を出しています。

厭世的な世界観

松本隆作品では異色作

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