「さよならベル」という夢
最近、夢を見ますか?
眠っている時に見る、あの夢です。
見たことのない場所に行く夢や、昨日見たテレビや食べた晩御飯がごちゃ混ぜになった夢。
何かに追われて逃げ続ける夢や、果てしなく微妙な自分だけのゆるキャラが登場する夢。
目覚めてもはっきり覚えていたり、思い出したいのに思い出せなかったり。
普段忘れていることを思い出させてくれたり、筋書きは忘れたけれど感触だけ残っていたり。
共通していることは、どんなにシュールな舞台設定でも、凶暴なまでのリアリティを持っている、ということ。
終わりを決められないくせに、余韻を残していくこと。
indigo la Endの「さよならベル」という曲は、夢がテーマです。
誰かに恋した淡い思い出を、夢に見てしまう主人公が登場します。
共有する切なさ
生まれてから今まで、一度も夢を見たことがない人はいないでしょう。
数ある夢の中でも、最も破壊力が高いものが、「好きな人登場系」です。
個人的な話をして良いですか?
中学1年生の頃、「夢に出てきたから」という理由で人を好きになりました。
全く話したこともない、意識さえしていなかった人でした。
前の夜に眠りに落ち、朝目覚めると恋に堕ちていたのです。
晩ご飯が餃子だったことを今でも覚えています。
夢見がちという点で、これは完全に黒帯だと自負しています。その道のプロです。
何が言いたいかというと、主人公の気持ち、めっちゃわかる。ということなのです。
どうか最後まで、眠らずにお付き合いいただけることを願います。
indigo la Endの魅力
indigo la Endというバンドは、とても珍しいアーティストです。
まず、演奏が上手いです。
もちろん、プロとして活動しているのですから当たり前なのですが、それにしても上手いです。
そして、その「上手さ」がとても自然なのです。
選び抜かれた「音」
例えば、りんごがあったとします。
皮をむかずに鍋に放り込み、ほかの果物を思いつくまま入れて、煮込んだフルーツソースをポークソテーにかけたらできあがり。
確かに良い素材を使えばおいしいです。けれど、必然性が足りません。
indigo la Endは、極上のりんごジャムのようなバンドです。
決して余計なことはせず、甘酸っぱさとみずみずしさを引き出すことに力を注ぎます。
テクニカルなフレーズが多いように聴こえますが、どの部分からも必然性を感じます。
曲の良さを引き出すために考えた結果、たまたまテクニカルなフレーズになった。
そんな風に聴こえます。
切り取られた「風景」
indigo la Endの曲を聴いていると、「絵」が浮かび上がります。
それは、川谷絵音が描きたかった絵と、必ずしも同じものではないかもしれません。
けれど、余分なものを削り落とした、その滑らかで美しい、淡くかつ鮮やかな「切なさ」を受け取った時。
自分自身の記憶と結びついて、より鮮明に「思い出」が浮かび上がります。
その時に感じる切なさは、それぞれの心のままに。
なんだかそれを、indigo la Endは許してくれそうな気がするのです。
「さよならベル」という情景
当たり前ですが、「別れること」はつらい事です。
それが友達でも家族でも、恋人でも飼い犬でも、初めて会った人でも、過去の誰かでも。
「別れ」にはいくつか種類があります。
準備ができるもの、できないもの。
自分で決めたもの、決められなかったもの。
過去以上、現在未満
あれからここに来る度
君を思い出しては泣いて
霧雨降る坂の途中の自動販売機
「喉が渇いたの。」って言いながら涙を流す君を
そっと抱きしめられなかったことを思い出す
出典: さよならベル/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
過去の淡い後悔は、時間が過ぎても心の奥に残っています。
いつもはふたがされていて、ふとした拍子にキャップが緩むと、中身がこぼれることがあります。
たまにわざわざ出かけて行って坂を上り、自動販売機にコインを入れてしまいたくなることもあるでしょう。
それが、今は手に入らないものだとわかっていても。
余談ですが、この場面で一番ふさわしいのはレモンティーです。
梅こぶ茶だと、なかなかイメージしにくくなります。
日本人に生まれながら、嘆かわしく思いました。
Good bye
Good night
ハイファイな夢を見てたんだ
Good bye
Good night
起きたらまた上手くいくよな
Good bye
Good night
ハイファイな夢を見てたんだ
Good bye
Good night
誰か早く起こしてくれよ
出典: さよならベル/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音