『曇天』
今回ピックアップするのは私立恵比寿中学(以下エビ中)の『曇天』という楽曲です。
ももクロの妹分でもあるエビ中の魅力といえば現役中学生のような天真爛漫さにあります。
しかし今回紹介する『曇天』では意外なことに少し大人の切ない恋愛観を歌っているのです。
4回目のコラボとなる吉澤嘉代子
通好みなシュゲイザー・サウンドとセンチメンタルなメロディで彩られた『曇天』。
制作は『残ってる』『女優』などでお馴染みの妄想系シンガーソングライター吉澤嘉代子さんです。
実はエビ中と吉澤さんのコラボは『面皰』、『日記』、そして吉澤さん名義の『ねえ中学生』に続く4回目。
果たして吉澤嘉代子さんは『曇天』にどのようなストーリーを込めたのでしょう?
ここからは歌詞を解説しながらその切ない物語を紐解いていきます。
ファインダーが映し出す「曇天世界」
『曇天』に込められた意味とは?
まず最初に『曇天』というタイトルに込められた意味を考察してみましょう。
『曇天』とは書いて字のごとく「曇り空」を指す言葉です。
古くから歌の世界では心の様子を天候に例えて表現してきた経緯があります。
「晴天」なら清々しい気持ち、「雨天」なら憂鬱な気持ちというのが一般的な例です。
それでは「曇り空」はどのような心理状態を表しているのでしょう?
黒い雲が空全体を覆ってしまい、太陽がほとんど見えない、また日が射さない状態。曇天。
また天気以外では、透明なものなどが曇ってぼんやりしていること、気持ちなどが沈んでいることなどを指す。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/曇り
一般的な定義ではグレーの雲が空を厚く覆い隠した状態を『曇天』と呼びます。
「曇り空」が自律神経に影響を与え精神のバランスを崩しやすいという研究結果は有名です。
カラーセラピーの世界でも白黒ハッキリしないグレーは不安定な心を表すといわれています。
マイナー調のコード進行とザラついたギターサウンドが想起させるのも主人公の不安定な心理状態です。
吉澤嘉代子さんがこのような繊細な楽曲をあえてエビ中に提供したこと。
そこにはエビ中が音楽面・活動面での転換点を迎えていることを前提にしているのかもしれません。
窓の外に広がる私の心のような世界
夕闇の中 ソファで抱きあう
電気を消せば 窓枠が 曇天世界を切りとる
出典: 曇天/作詞:吉澤嘉代子 作曲:吉澤嘉代子
幽玄なアルペジオで始まる『曇天』の歌い出しを見てましょう。
夕暮れ時、恋人と2人きりで過ごすロマンチックなひと時。
ふと外を眺めた主人公の心を捉えてしまうのは分厚い雲に覆われた『曇天』です。
四角い窓枠で縁どられ、まるでカメラのファインダー越しに覗いたような光景。
その曇り空の色を主人公は自身の内面とつい重ねてしまいます。
幸せな時間を過ごしているはずなのに...どうしてこんなに私の心は曇っているんだろう?
そんな想いがよぎります。
見ないようにしていたのにな...
夢が醒めて 背中にさわると
今日の空のような 底の見えない曇りがかった瞳をしていたの
わたしを映さないあなたをずっと 見ないようにしていたのにな
出典: 曇天/作詞:吉澤嘉代子 作曲:吉澤嘉代子
主人公は恋人のことが大好きです。
初恋にも似た、言葉では言い表せないような愛しい感情を抱いているのでしょう。
その一方で相手は自分のことをそれほど愛しく思っていないと感じているのです。
そのことに心の奥では気付いていた彼女は無意識化で彼の本心を見て見ぬふりをしてきました。
認めてしまうことで2人の関係が崩れてしまいそうな気がしていたのでしょう。
確かにその場にいて見つめ合っているはずなのに彼の気持ちを感じることができない...。
「曇り空」を見たことで主人公は彼の心がここではないどこかにあるという事実を悟ってしまいます。
そして彼女は彼の瞳の中に先ほど目にした『曇天』を重ねてしまうのです。