今度は「サイレン♯」のはじめのフレーズです。
掴まれた「細い腕」の持ち主である「私」の目線です。
「夜を舞う白い羽」は先ほど出てきた蜉蝣のことでしょう。
おそらく私を象徴する存在として蜉蝣がいると解釈して間違いないでしょう。
いつか「僕」も「私なんて」忘れてしまい、「私」はいらない存在であると感じています。
そんな「私」は孤独で悲しい心境であることでしょう。
「僕」の「痛み」と「私」の「白い衝動」
潤んだ遠い目
夜霧、陽炎のように揺らいで消える君を
出典: サイレン/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
溶け落ちる心そのままで
冷めやらぬ白い衝動痛いよ
駆け抜ける街の片隅で
鳴り止まぬ君のサイレン
開いてよ
出典: サイレン/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
「サイレン」のメロからサビの歌詞です。
「僕」から「潤んだ遠い目」をしている「私」が見えています。
「私」はおそらく泣いていて、孤独を抱え遠い目をしています。
「夜霧」とは読んで字のごとく夜に出る霧のことですが、季語でもあり秋を示します。
ちなみに「蜉蝣」も秋の季語です。
このことから秋の長い夜の出来事だということがわかります。
ここでの陽炎は光の屈折によりゆらゆらと幻を見せる現象のことで蜉蝣とかけています。
陽炎の幻の様に「君」(私)は「僕」のもとから姿を消します。
「溶け落ちる心」とはおそらく「私」の孤独な心のことをさしているのだと思います。
「白い衝動」というのはどのような衝動でしょうか?
「黒い衝動」だとすると破壊や犯罪的な衝動のイメージです。他への負の衝動と言っていいでしょう。
「白」はその逆の色です。そして「白い衝動」を「痛い」と言っています。
そこから想像を膨らまして、「白い衝動」とは自己への負の衝動であるのではないかと考えます。
すなわち自殺願望のようなものではないかと筆者は考えます。
要するにここのフレーズでは、
「私」の孤独な心が自殺願望のような衝動を抱いていることに対して「僕」が辛く痛い気持ちであるのだと思います。
そして「僕」は「僕」の元から消えてしまった「私」に願います。
「開いてよ」というのはおそらく「羽」ではないのかと思います。
蜉蝣に似た華奢で儚い「私」が持っているであろう「羽」を「開いてよ」と願っています。
「サイレン」とは警告音のことです。
消えてしまいたいと思う自殺願望を持つ「私」の警告音が鳴り続けています。
「僕」にはそれが聞こえているのでしょう。
車窓に映った街明かり 涙で滲む影、コマ送り
生まれてしまったその理由も
わからないまま私は消える
出典: サイレン♯/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
こちらが「サイレン♯」のサビです。
ここでの「車窓」は「コマ送り」となっていることから電車の車窓のことでしょう。
「私」は泣きながら電車に乗り、車窓の街明かりの影を眺めています。
「私は消える」と言っていることからやはり死のうとしているのではないかと思います。
まるで1日ほどしか生きない蜉蝣のように「生まれてしまったその理由も」わからないままです。
「僕」の「願い」と「私」の「葛藤」
千年先を想い描けないけど
一寸先を刻むことで始まる僅かな願い
出典: サイレン/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
「サイレン」のCメロです。
これも「僕」が「私」に願っています。
千年先のような遠い未来は想い描くことができず不安かもしれないけれど、
日々を刻んで生きていけば僅かかも知れないけど「願い」が生まれるかも知れない。
悲観的になり自暴自棄になっている「私」に対してのメッセージに聞こえます。
闇をかき分け差し込む光
今も消えない明日への焦り
理由(わけ)もなく止まないその痛み
誰かどうか見つけて
開かない白い羽
いつかきっと崩れて
私なんか消えるんだ、きっと
出典: サイレン♯/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
今度は「サイレン♯」のCメロです。
「闇をかき分け差し込む光」とは秋の長い夜が明けて朝になったということでしょう。
僕の願いとは裏腹に、「私」は明日への焦りを抱き、理由のない痛みを抱えています。
さっきのフレーズで「私は消える」と言っていますが、誰か見つけてと助けを求めます。
蜉蝣の様な綺麗な羽で羽ばたくこともできず、
理由のない痛みと明日の焦り、
消えたいと思いながら、誰かに助けを求めてしまう。
「私」の孤独と葛藤が表現されています。
「僕」と「私」のすれ違い
溶け残る心そのままで
癒えきらぬ傷塞いで痛いよ
駆け抜ける街の片隅で
響きなる君のサイレン
開いてよ
存在証明を鳴らせ
サイレン
出典: サイレン/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
「サイレン」最後のサビです。
「溶け残る心」とは「私」の心です。
先ほどのサビでは「溶け落ちる心」だったのですが「残る」になっていることから、
「私」はやはり完全に死にたいわけではなく助けを求めているのがうかがえます。
「私」の心の「傷」に対して「僕」はやはり辛くて痛いといった心境です。
最後は「存在証明を鳴らせ」と訴えます。
辛い、消えたい、といった「警告音」が「存在証明」であるのだと。
負の感情を心に留めておくのではなく、「警告音」として何かしらで表現しろと訴えています。
それが「僕」の願いです。
車窓に映った街明かり
涙で滲む影、コマ送り
あなたに出逢ったその理由も
わからないまま世界が終わる
闇をかき分け差し込む光
今も消えない明日への焦り…
理由(わけ)もなく止まないその痛み
出典: サイレン♯/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文・山田貴洋
「サイレン♯」の最後のフレーズです。
やはり「私」は焦りと孤独と痛みを抱えたままです。
「あなた」(僕)に出逢った理由もわからないまま死んでしまうのだと絶望しています。
「私」は一体このあとどうなっていくのでしょうか。
残念ながら楽曲はここで終わりです。