作中に漂う「閉塞感」
「深海」というアルバムは、まさに「海の底」のようなアルバムです。
このアルバムの曲には桜井さんが感じていた生きる事への絶望が随所に表れています。
しかし「名もなき詩」のようにそこから抜け出したいと歌う曲もありました。
どちらにせよ感情の行き場がなくなっている状態だったことがわかります。
その中で「Mirror」という曲はどのような位置づけだったのでしょうか。
それでは歌詞を読み解いていきましょう。
普通のラブソングに聴こえるけれど...
執拗な「Love」
いつの間にやり場もなくこんな想いを抱いてた
ありふれて使い古した言葉を並べて
oh Love Love Love Love Love Love Love
Love Love Love Love Love
oh Love Love Love Love Love Love Love
uh...
出典: Mirror/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
ゆるい曲調も相まってストレートなラブソングに聴こえますね。
実際にラブソングなのかもしれませんが、今記事では少しひねくれて考えてみます。
まずここで注目して欲しいのは「Love」という言葉です。
実に19回も出てくるのです。
曲中で聴いていてもあまり気になりませんでしたがさすがに多いですね。
これには桜井さんの狙いがあるのではないかと思います。
「この曲はラブソングだ!」
まるでこう思い込ませたいように私は感じました。
「想い」という言葉
窓際に腰を下ろしてフォークギターを鳴らしては
風立ちぬ夕暮れの空に向け歌う
そりゃ碌でもなくポップなんてものでもなく
ましてヒットの兆しもない
ただあなたへと想い走らせた
単純明解な Love Song
出典: Mirror/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
ここではこの曲のコンセプトが少し垣間見えます。
Mr.Childrenはこの当時もポップなヒットソングを連発していました。
しかしここで伝えたいことはそれらの曲とは違うというのです。
ヒットソングとは大衆の多くの心を掴んだ曲です。
それと逆であると考えるとこの曲はとても私的な曲だと考えられます。
そしてもう一つ「想い」という言葉に注目してみてください。
「想い」という言葉は主に恋愛で使われることが多い言葉です。
しかしその他にも広い意味で使うことができる言葉なのです。
例えば「心配」な時にも使うことができます。
そして先ほどの「Love」。
「愛」も恋愛だけではなくたくさんの愛があります。
ではこの曲ではどうなのでしょうか。
桜井さんが抱えていた問題
舗道に沿って幸せそうに
歩き出した恋人たちを
羨むように讃えるように
そっと君を待っている
出典: Mirror/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
桜井さんが当時抱えていたプライベートの問題。
妻と子どもがいるのにもかかわらず、ある女性と「不倫関係」になってしまっていたのです。
その後妻と正式に離婚をして、現在はこの女性と婚姻関係にあります。
この関係が発覚したのが1997年のことでした。
彼は世間に知られるまでの間、その悩みを楽曲にぶつけていたそうです。
彼らの関係がいつから始まったかは定かではありません。
しかし「深海」の発売が1996年なので、この頃から始まっている可能性は大いにあります。
その背景を考えてこの歌詞を見てみましょう。
ここでは桜井さんの葛藤が感じられますね。
幸せそうなカップルに嫉妬と賞賛という対極の気持ちを抱いています。
この歌詞からも彼自身の生活はあまり上手くいっていないことが窺えますね。
ではその状況で待っている「君」とはいったい誰なのでしょうか。
一見この「君」が恋人のように思える歌詞ですが、果たしてどうなのでしょう。
「君」の正体と「Mirror」の意味
人前で泣いたことのない そんな強気なあなたでも
絶望の淵に立って迷う日もあるでしょう
夢に架かる虹の橋
希望の光の矢
愛を包むオーロラのカーテン
その全てが嘘っぱちに見えて 自分を見失うときは
あなたが誰で何の為に生きてるか その謎が早く解けるように
鏡となり 傍に立ち あなたを映し続けよう
そう願う今日この頃です
出典: Mirror/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
この曲の後半部は丸ごと一つのメッセージになっています。
先ほどから話している通り桜井さんは追い詰められ、精神的に病んでいました。
「死にたい」と口にするほどに希望を失っていました。
「絶望の淵に立って」いたのです。
「君(あなた)」の状況は当時の桜井さん本人のものとよく似ていますね。
そこで最後に鍵を握るのが「鏡」です。
鏡を見た時に映るものはなんでしょうか。
もちろん「自分自身」になります。
つまりこの曲は、桜井さんが彼自身に贈った歌だったのです。
彼は本来の自分とメディアを通して映る自分のギャップに苦しんでいました。
「Mr.Childrenの桜井」であることに疲れていたのでしょう。
だから「本当の桜井和寿」が彼に語りかけていたのです。
では「Love」とはどういう意味だったのでしょうか。
それはきっと
『自暴自棄にならないで、もっと自分を「愛して」欲しい。』
という意味での「愛」を表していたのですね。