レディーレ
歌詞
笑えないわ 「不幸になった」って どの口が言うのだろう
もう何回 誤魔化している その指で遊んでる
ふざけないで 被害者ぶったって 何も変わりはしないのに
こうやって 夜は更けてく おやすみ
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
まず、タイトルの「メーベル」とは、ドイツ語で“家具”の意味。
熱烈で嫉妬深い愛の歌に聞こえるのに、なんて簡素なタイトルだろうと少し驚きます。
さて、歌詞をざっと見ていくと、これはどうやら“道ならぬ恋”をしている男女の歌のよう。
不幸になったと被害者ぶるのは、相手の男性のようですから、主人公の女性にはすでに別の相手がいるのでしょう。
ありていに言えば不倫ソング、ということになるのでしょうか。
そんな、お互いを傷つけているという実感さえも、ふたりにとっては愛のスパイスになりかねないのでしょう。
だから 相対になるのは夜が明けてから
ほらね 今日は眠るのさ
そして こんな言葉に意味などはないから
気にしないで目を閉じて
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
相対、とは、ひざを突き合わせて正面から話すことを言います。
ふたりの関係をどうするのか、話し合わなければいけないところまで来ているのでしょう。
ですが主人公は(ひょっとしたらお互いに)、そんな相手の申し出をはぐらかして夜に沈めてしまいます。
そうすれば、あのひとともう少し一緒にいられるから。
ズルズルと続くその関係は、引き返せないところまで進んでしまいそうです。
傷が付いて変わっていった程度のものと言うのでしょう
もう何回 繰り返している その胸で眠ってる
不意に吐いた「嫌いじゃないよ」って その言葉で揺れるのに
そうやって 目を伏せるのは 何故 何故 何故
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
ふたりはもともと、遊びで恋を楽しめるような人間ではありませんでした。
だからこそ、お互いの想いの深さに苦しみ、何度も離れようと試みたのでしょう。
でもそのたびに、どちらかが狡くなるのです。
「嫌いじゃない」って言うくせに、じゃあなんでわたし一人と決めてくれないの。
そう責めることも、上手にできないのです。
なぜならふたりは共犯者だから。
曖昧になるのは嘘に怯えるから
またね 遠く灯が揺れる
ここで 愛情を問うにはあまりに遅いから
聞かなかったことにしよう
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
絶対にあのひととは別れるから、とか、来年には一緒になろう、とか、決定的なことは言えないふたり。
曖昧なまま愛を隠すのは、もし約束してしまえばきっと嘘をつくことになるのがわかっているからです。
だけど今、“愛してる”なんて言うのはもう、今更過ぎるのです。
視線が、肌の温度が、その声が、もう愛を伝えてしまっているから。
Ah-a 青になって熟れる様な
Ah-a 赤になって枯れる様な
Ah-a 拙い拙い想いだけ
募ってしまって仕方がないんだよ
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
だけどお互いに思いのまま伝えられない恋心は、未消化なまま募るばかり。
赤く熟れるはずの果実は青いまま腐りだし、黒く枯れるはずの花は赤いまま散っていくように、いつまでもその恋は消えてくれません。
だから だから相対になるのは夜が明けてから
ほらね 今日は眠るのさ
そして あんな言葉も優しさというから
触れる様な虚しさが残る
出典: メーベル/作詞:バルーン 作曲:バルーン
どこにも行けない恋心を抱えながら、今日もその腕を恋しいと思って眠る。
切なさはいつか、彼女を殺してしまうのかもしれません。
それではなぜ、この曲のタイトルが「家具」なのでしょうか。
これはまるで皮肉の言葉のように思えるのです。
わたしのことを、あなたはきっと当たり前になってしまった家具程度にしか思ってくれていない。
でもわたしにとってもいつのまにか、そんな存在になってしまっていた。
そんな恋の終焉を、描いているようにも読めます。