「スターゲイザー」は彼らの狂気の部分を照らしたアルバム「Eye」のクライマックスです。

この歌詞で連ねられた「当たり前の現実」すべてに狂気が居座っていないかとFukaseは問います

現実なのにどうもディストピアのようだと彼は告発したいのです。

過酷な現実を前にして気が狂いそうだ。

しかし本当に狂っているのは私たちではなくて現実の方ではないか?

Fukaseの問いは深刻なものです。

告発の範囲が現代の人間生活のあらゆる場面に及びます。

「スターゲイザー」に一縷(いちる)の望みを賭ける

「夢想家」が世界を導く

Fukaseは過酷な現実を列挙して告発した後に、唇から息を漏らすようにある単語を私たちに伝えます。

stargazer(星を見上げる人)

出典: スターゲイザー/作詞:Fukase 作曲:Fukase

星を見つめる人、その意味から占星術師、または天文学者の意味があります

それらに加えて「夢想家」という意味合いもある言葉です

困難な現実と「スターゲイザー」という存在のコントラストが鮮烈であります。

社会は「夢想家」の存在を嘲笑う傾向がありますが、「夢想家」なくしては人類の進歩はありません。

社会をより良くしていこうという心意気を持った人、それが「スターゲイザー」の正体です。

現実を嘆いて空の星を見つめる人にFukaseは人類のわずかな希望を託します。

「スターゲイザー」が描く世界は過酷ですが、星を見つめる人を登場させることが最小限の灯りです

星を見つめる人には夜道でも照らされた道筋が見えるはず。

混迷する社会を明るい方向に導いてくれるのは、いつだって「夢想家」の性質を帯びた人です

ジョン・レノンの「イマジン」のテーマに近い事柄。

「イマジン」と「スターゲイザー」では曲調がまるで異なりますが、根底にある問題意識はかなり似ています。

「スターゲイザー」は希望の歌

まだまだ続くFukaseからの告発

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Fukaseは2番の歌詞でも狂気の現実を列挙します。

見ていきましょう。

それは
電車に揺られて眠るように
休みを取らずに働くように
命を削って生きていくように
勝つことこそが目標なように
出る杭は打たれていくように
小鳥の声で目が醒めるように
怒れば君が黙るように
もう君が笑わないように
時々頭がおかしくなる普通の日常

stargazer(星を見上げる人)

出典: スターゲイザー/作詞:Fukase 作曲:Fukase

電車の揺れで衆人の監視の中で無防備に寝てしまうこと。

企業に酷使されてまともに休みを取ることもままならない現実。

現代社会が生活するだけで疲弊するような社会である実情。

資本主義社会では他者を出し抜き、競争に打ち勝つことが至上命題である現状。

特に日本社会では目立つことが悪とされる風潮があること。

日々、横行するバッシングや炎上騒ぎ。

小動物との触れ合いでしか朝の訪れを知ることができない日々。

喚き散らして鬱憤を発散することで相手を黙らせてしまう悪癖。

これらの現実の結果、失われるのは人の笑顔です

それは当たり前かつ些細な事柄かもしれませんが、告発に値する狂気が潜んでいます。

「過酷な現実」、それは同義反復であると喝破したのはエマニュエル・レヴィナスという思想家です

「過酷」と「現実」は同義であると彼は「全体性と無限」という書物の序文で書きました。

慧眼(けいがん)です。

再び「スターゲイザー」へ希望を託す

「過酷な現実」に対峙する存在としての「スターゲイザー」、星を見つめる人。

やはりFukaseは一旦地上の光景から視線を外し、満天の星空に目を開く人の存在に希望を託します

「スターゲイザー」は絶望するような現実を歌いながら、わずかな希望に賭けるのです。

ヘヴィーでダークな曲調ですが、浮揚するような電子音が希望を表現します。

この歌詞の世界をFukaseが脚本にして書き下ろし、藤城雄一郎監督が映像化したMVがまた傑作です

主演の欅坂46平手友梨奈の演技に注目しながらMVを観ていきましょう。

平手友梨奈の体当たりの熱演

MVの見どころ

MVはFukaseの意思・意志が深く貫かれていますが、その構想を実現させたのは平手友梨奈です。

舞踏シーンの振り付けも平手友梨奈自身が考えて演じます

彼女はこのMVの撮影のために黒髪にブリーチをして金髪にするのです。

正に体当たりの演技といえるでしょう。

荒廃した現実に現れた「スターゲイザー」