吉川晃司、1992年の名曲「せつなさを殺せない」
COMPLEXの解散後に発表
1992年2月6日発表、吉川晃司の通算14作目のシングル「せつなさを殺せない」。
布袋寅泰とのユニットCOMPLEX解散から1年と少しを経た時期の曲です。
アイドルから本格的なアーティスト・ボーカリストにステップアップした彼の成長を実感できます。
作詞作曲ともに吉川晃司です。
プロデュースは吉川晃司とベーシスト出身の吉田健。
「せつなさを殺せない」は適度なデジタル楽器と従来のロックのバンドサウンドが融合した音楽です。
タイトルからもうかがえる通り熱いラブソングになっています。
オリコン・シングル・チャート最高6位。
オリジナル・アルバムには未収録ですがラブソング集「TOO MATCH LOVE」やシングル集に収録。
その他、ライブでの歌唱も好評です。
COMPLEX解散後の吉川晃司のアーティスト活動の中でも欠かせない1曲になりました。
この「せつなさを殺せない」の歌詞の魅力に迫ります。
グイグイと相手を引っ張る愛
吉川晃司の恋愛哲学
止まらない愛しさ溢れてAh連れ出してRUNAWAY
叫びそうさ 俺だけの君と
FLASHをちりばめた様なAh星の降るHIGHWAY
願い込めて闇にすべり込む
出典: せつなさを殺せない/作詞:吉川晃司 作曲:吉川晃司
エレキギターによるピッキング・ハーモニクスが印象的なイントロを経て歌い出しになります。
韻を踏んだ歌詞が印象に残るはずです。
歌詞の内容は冒頭から「君」への愛の告白がたっぷり。
まだ三十路にすらなっていない吉川晃司です。
一方で若すぎたアイドルの面影は薄れて大人のアーティストへと脱皮した後。
男性としての魅力は一番脂が乗っていた頃になります。
こんな赤裸々な愛の告白を受けたら動揺するほど嬉しいと歌詞の世界に惹き込まれたリスナーも多いはず。
「君」への愛情を積極的に表現する一方でグイグイと外へ連れ出すことを宣言する吉川晃司。
彼にとっては得意のシチュエーションの歌詞です。
「せつなさを殺せない」以前に書いた「恋をとめないで」の歌詞でも恋人を外へ連れ出そうとします。
また車で迎えに行き連れ出すという設定も共通している。
吉川晃司は密室でふたり動かないまま愛するよりも都市の躍動のもとで愛を感じていたいのでしょう。
歌詞の世界が「動きだす」歌い出しです。
感じたいのは愛の躍動
吉川晃司の色気がほとばしる
RISKY 敷きつめた 危ない欲望に
MISTY 二人溶けて 永遠を泳ぐ
出典: せつなさを殺せない/作詞:吉川晃司 作曲:吉川晃司
何らかの負荷がない状況では恋愛感情は平穏なまま燃え上がることがありません。
彼は少しでもリスクの伴う危険と隣り合わせの恋愛の風景に「君」を引きずり込みます。
彼が感じたいのは躍動する愛の姿なのです。
永続する愛とはそうした起伏のあるもの。
愛は毎度訪れる出来事の中で生命力を新たにして永続するのだと吉川晃司は歌います。
サビへと繋がれる短いラインですが彼の色気があふれた歌唱の魅力で鮮烈に響く箇所です。
“せつなさ”を肯定する
忘れられないサビ
Oh Darlin'せつなさを殺せない 何度でも
確かめてひたむきなら やさしくなれる
Darlin愛しさを殺せない 時を越え
夢を越え 世界が背いても放しはしない
出典: せつなさを殺せない/作詞:吉川晃司 作曲:吉川晃司
主題となる”せつなさ”が歌われるサビです。
ふたりが一緒にいられない時間や一緒にいてもどこかふたりの間に漂う”せつなさ”を無理に押し殺さない。
吉川晃司は人々が嫌がりがちな”せつなさ”をむしろ愛を盛り上げるために必要なエレメントとして描きます。
この価値の転倒こそ「せつなさを殺せない」が生んだ愛の智慧です。
お互いが感じ合う”せつなさ”をしっかりと抱きしめれば一緒にいるときには優しさを持ち寄ることができる。
感性の違いか発想の転換か?
とにかく彼は愛における”せつなさ”がもたらす良い効果に目を啓きます。
お互いを一途に愛しあうからこそ空白の時間を”せつなさ”が埋めてしまうのは仕方がないこと。
それほどにお互いが求めあっている証拠なのだから”せつなさ”を無理に排斥しないようにしよう。
吉川晃司の愛の感性は非常にポジティブなものなのです。
愛に関するすべてのものを大切に慈しもうという心情が透けて見えます。
心根の優しい人なのかもしれません。
また、世界中が敵になっても僕らの恋は不滅とするラインも素敵です。
このサビは一度耳にすると忘れ難いメロディと言葉でできています。
ソングライターとしての吉川晃司の優れた才能がいよいよ頭角を現した時期でしょう。