高純度な恋愛の美しさ・宇多田ヒカルの「Beautiful World」
『Beautiful World/Kiss & Cry』両A面シングル
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』主題歌として大人気に
”シンジに共感”宇多田ヒカルの中にいるシンジを活写
宇多田ヒカルが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の主題歌に新曲を提供するきっかけとなったのは、映画製作スタッフサイドが読んだ彼女のとあるインタビュー記事でした。
『週刊プレイボーイ vol.23』(2006年6月5日号)に掲載された「エヴァンゲリオン10年目の真実」という特集にて、アニメファンのひとりとして語ったインタビューです。
思春期のど真ん中で「スーパースター」というマシンに乗り込むことを周囲の大人たちに促され、無我夢中で戦っていた彼女のリアルな姿が打ち明けられていました。
宇多田ヒカルだからこそ歌えたエヴァンゲリオン
普通の人生を選択する余地を与えられない主人公:シンジに、平成の歌姫という人生を受け入れる大人の女性となった彼女がシンクロしたことで、より一層エヴァンゲリオンの世界観が一般の人々に翻訳されて伝わった楽曲ではないでしょうか。
1番の歌詞の解釈
10代だけが放つことのできるきらめきを歌う
もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの
It's only love
出典: Beautiful World/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
この歌詞にある「君」と推定される主人公:碇シンジは、本人の意思とは無関係に、周囲の同級生から大人(果ては使徒)まで、ありとあらゆる人を惹き付ける「何か」を秘め、常にキラキラと輝いています。
寝ても覚めても少年マンガ
夢見てばっか 自分が好きじゃないの
何が欲しいか分からなくて
ただ欲しがって ぬるい涙が頬を伝う
出典: Beautiful World/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
本人はその特性に無自覚なのに注目され続け、周りから「ああしろこうしろ」と求められたり一方的に失望されたり、傷つくために生きているような毎日を送るシンジに与えられる言葉が張り巡らされているような歌詞です。
言いたいことなんか無い
ただもう一度会いたい
言いたい事言えない
根性無しかもしれない
それでいいけど
出典: Beautiful World/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
「どんな場所でもいいから、側で眠らせて」だったり「君だけ」とか「自分が好きじゃないの?」など、相手の一方的な理想や推測が満ちた言葉にさらされたシンジが一言、「言いたいことなんか無い、言えない」と気持ちを伝えます。
言葉に出せなくても、会いたい気持ちだけがあり、それを誰かにどう評価されたとしても「それでいいけど」と諦めるスタイルは、アニメでのシンジの口癖のようなものでした。