増田俊樹の1st EP収録曲「風にふかれて」

声優としても活動する増田俊樹さんが、1st EP「This One」を2019年の3月にリリースしました。

「風にふかれて」はこのEPの収録曲です。

この曲はリリースに先駆けてラジオでも流れたため、喜んだファンの方も多いのではないでしょうか。

キレキレなギターさばきとピアノの音色が軽やかで明るいメロディ。

しかし、その雰囲気はどこか憂いを感じさせます。

そこに乗せられる増田さんの歌声がさらにクールです!

リード曲でもあるこの楽曲は、YouTubeショートバージョンのMVが公開されています。

映像は全編にわたって、この曲を歌う増田さんが主人公。

今回はこの公開中のMVを中心に、曲の世界観を覗いてみましょう。

負のエナジーの表現者

フォトセッション

まずメイクアップツールの映像からMVはスタートします。

増田俊樹というアーティストが、これから主人公になりきって演技しますよ…というメッセージのようです。

MVで最初に映されるシーンが、カメラマンとのフォトセッションになります。

モノトーンを基調にしたスタジオが印象的なシーンです。

増田俊樹と向き合うカメラマンが次々にシャッターを切っていきます。

色彩を抑え込んだノスタルジックな映像です。

この画面が、暗にこの歌の主人公が置かれた状況を示唆しているように思えます。

つまりこの白黒の雰囲気が、その心の陰りを映し出しているのでしょう。

それがスタジオという密閉された狭い空間の中でいっそう凝縮され、見るものを惹きつけます。

各所に映される青いディスプレイの場面も印象的です。

画面に物憂い表情を浮かべた増田さんの刻々と変化するリアルな動きが映し出されています。

この表現の仕方が、より一層スタジオ感を感じさせてくれるのでしょう。

そんな映像に軽快で繊細なストリングス、切り刻むようなギターワークが響いているのです。

周囲に配置された照明器具やストロボの光と相まって、ある種の臨場感を生み出します。

まるで移ろいやすい秋空を急ぐを見るような…。

ピアノを叩く女性の白い指が奏でる音色は、雲間から覗く穏やかで暖かな日差しのようです。

それがジャジーなサウンドの中に溶けていくようですね。

飾らない憂い

そして文字通り、憂いの感情を内に秘めた表情で床に佇む増田さんがなんとも印象的です。

やがて目の前のカメラマンなど意に介さない気だるい顔つきで、歌詞を口ずさみ始めます。

彼のパーソナリティから自然に湧き出るかのようです。

この表情は、孤独と不安に苛まれた歌詞の中の主人公を演じているのではないでしょうか。

太平洋高気圧と移動性高気圧

ここで少し、歌詞のほうにも目を向けてみることにしましょう。

歌詞も知っておくことで、MVを深く考察することができます。

物憂げな秋空に孤独を一人責めてみても

出典: 風にふかれて/作詞:希瀬 作曲:希瀬

この「秋空」は、一体どんな空なのでしょうか。

夏の空は太平洋高気圧の湿気をはらんだ水蒸気が、空気中にたっぷりと漂っています。

これらに日差しが乱反射して空が白っぽくなるのです。

ところが秋は移動性高気圧になるので、「秋晴れ」といわれるように空気が澄んでいきます。

しかしこの時期は、高気圧と低気圧が交互に日本の上空を通過して変わりやすくなるとのこと。

つまり、天気や空の様子が変わりやすくなるのです。

「物憂げ」とはころころと移ろいやすい空模様を、人の心情と結び付けているのではないでしょうか。

何か不安を抱えている時、人は気分が変わりやすくなります。

秋空を擬人化することで、変わりやすい空模様を「物憂げ」と表現しているのでしょう。

失意からの再生

孤独と憂鬱

MVの途中で増田さんはスタジオの中で立ち上がり、曲を熱唱します。

ディスプレイに次々と映し出されているのは、カメラマンが撮影した増田さんの画像です。

画像の増田さんの表情は相変わらず、どこか暗くて悲しげな雰囲気をまとっています。

すでにこの曲の中の主人公は失恋の危機に立たされ、孤独と憂鬱苛まれている状態なのでしょう。

その気持ちが秋空に投影されて物憂い秋空に見えているかのよう。

更に自分の中には孤独な自分を責めるもう一人の自分がいるのです。

その苦しさを吐き出すように、増田さんはスタジオの中央で叫ぶように歌っています。

傷が癒えないまま歩く