月の弱い光に照らされた、花はとても美しいというところでしょうか。
春は霞のように消えていく=心楽しい季節は、あっという間に過ぎていきます。
桜は紅枝垂れ、枝垂れ桜は趣があって良いということ。
簾(すだれ)越しに流れる鴨川(かもがわ)が流れています。
鴨川=(かわ)としているのは、これ以上の川はないということのようです。
祇園囃子に浮かれた後にやってくるのは蝉時雨です。
祇園囃子は、京都市の祇園会(ぎおんえ)のお祭りです。
7月に執り行われます。
蝉時雨(せみしぐれ)は、一斉に起こるセミの鳴き声が雨音に似ていることから時雨に見立てたもので夏の季語です。
時雨は、降ったり止んだりを繰り返す秋から冬にかけて起こる弱い通り雨のようなもので冬の季語となります。
まとめると、夏にお祭りで浮かれても何故か寂しいというようなニュアンスではないでしょうか。
溜め息に訳など無いわ
未練など 嗚呼…
悲しみを置き去りにして
慰めの言葉で殺(あや)めてくれ
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
「無いわ」から「嗚呼…」までは、女性言葉。
「悲しみ」から「くれ」までは、男性言葉。
のように見えます。
「未練など」には「無いわ」が連想され、「嗚呼」から言葉裏腹。
未練がやっぱりあるんかーい。となります。
別れ際に放つ慰めの言葉でとどめをさして欲しいということですから、それで想いが断てたらいいのに……。
と思っていることでしょう。
別れてもなお、積もる想いを殺せずにいる二人を思い浮かべます。
イヤな事だらけの世の中で
ひとり生きるのは辛いけど
この町はずれの夕焼けが
濡れた頬を朱で真っ赤に染める
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
まったく本当にイヤになってしまいますねー(個人的感想)。
私の愚痴は置いておいて、イヤの矛先が世の中に向けられているのは何故でしょう。
世の中が理不尽な事だらけだという「桑田」の思いもありましょうが、主人公達が引き離されてしまった理由がそこにありそうな気がします。
政治的な、法律的な何かがそこに働いたのかもしれません。
事情がありそうです。
ただ残されてひとりでいるのは寂しいけど、夕焼けに照らされた町並みが赤く美しいのだけは救いなのでしょうか。
街では無い事から、都会の町並みというよりは下町的な古めかしい住宅地をおもわせます。
「流星ワゴン」の故郷である。瀬戸内海の故郷(ドラマでは広島)を思わせます。
季語も素敵!
嵐山(やま)は化粧(けわい)
いろは紅葉
黄金(こがね)に揺れる稲穂に秋あかね
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
嵐山(あらしやま)は、京都にある紅葉(もみじ)の名所。
埼玉にも武蔵嵐山(むさしらんざん)がありますが、文脈から京都で間違いありません。
嵐山の紅葉が綺麗で、秋になったらまるでお化粧をしたみたいだということです。
この辺りの描写も、日本的(俳諧的)で美しいですね。
「いろは」は、いろは歌の最初の三文字です。
いろは歌は、ひらがなを全て重複させずに作られています。
紅葉の美しい葉の色には、二つと同じものがないようだと述べているようです。
また、「いろは」にはいろは歌が日本語の基礎を学ぶのに最適なことから、基本や初歩といった意味も含まれます。
もしかしたらその恋は、「いろは」を教えてくれたもの=初恋なのかもしれないですね。
黄金は太陽、つまり前出の夕日で、風に揺れる稲が茜(あかね)色に染まっていたのでしょう。
「あかね」は、アカネ科の多年草をさしますが、同時に秋の季語です。
ここまでで春から夏、秋へと季節が移り変わっています。
心乱れ
人恋しや
凍てつく胸に
小雪が舞っている
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
季節は冬へと変わってゆきます。
人恋しく凍てつく胸に、心乱れてしまいます。
寒くなってくると、寂しさが増長されて人恋しくなるものです。
ふと思い出して心乱してしまう主人公が想像されます。
小雪(こゆき)は冬の季語で、そのまま少し降る雪です。
小雪(しょうせつ)とするならば、11月の下旬になります。
関東では11月にはあまり雪が降りませんが、季語の多くは京都を中心に語られていることを念頭におきましょう。
あてもなく さ迷いながら
この世から 嗚呼…
躊躇(ためら)いがよぎるその前に
とびきりの笑顔で逝かせてくれ
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
「さ迷い」を「彷徨い」としない所に美意識が感じられます。
「この世から」は「生きるのは辛い」と相まって、旅立ちたい。
つまり「死」を予感させます。
躊躇わないうちに、最後に笑顔を見せてくれとあります。
とびきりの笑顔はここでは思い出のことでしょうか。
「逝かせてくれ」は明らかに男言葉です。
男に先立たれてしまったのかもしれません。
「葡萄」のジャケット(岡田三郎助のあやめ衣を参考にした)を見る限りでは、寂しい女性の心情を歌っていますし。
岡田三郎助は佐賀県生まれ、ドラマの広島と近いのは偶然なのでしょうか(多分偶然です)。
ある朝目覚めたその場所は
君と結ばれた花見小路
憎たらしいほど惚れさせて
いつか地獄の底で待ってる
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
花見小路は花見小路通り(はなみこじどおり)のことで、祇園のメインストリートのような所です。
古めかしい飲食店から、現代的な呑み屋街まで幅広く存在します。
楽しく飲んだ思い出を回想しているようです。
愛憎という程、本気の恋だったのでしょう。
「地獄の底で待ってる」は、転じて「いつかまた会えると信じている」ということです。
地獄がらみですから、言いたい事がたくさんあるのでしょう。
女の執念を感じます(笑)。
言葉少なくとも伝わるストーリー感
嘘ばかりつく女
それを真に受けた男
出典: イヤな事だらけの世の中で/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
全くありそうな話です。
ありきたりというのではなく、リアリティーがあると思います。
ここまでの解釈で、男が先に死に、女が残されたとします。
嘘ばかりついた女は、実は素直になれなかっただけなのですが。
真っ直ぐすぎる男は、いつも振り回されて迷い、死んでしまいます。
女は後悔のなかで、死にたいと思いながらも死にきれずに生きているという状況設定です。
歯がゆくてもどかしい、一つの出会いで人生が変わってしまう程のインパクトがあったのです。
人には、「人生ただ一度」としか思えないような激しい恋をする事があるといいます。
この二人にとっては、人生を賭ける以上の意味があったようです。