中島みゆき『世情』の歌詞の意味が深すぎる・・・。○○を見たことから誕生した歌詞の意味を徹底解釈!の画像

学識者や文化人という肩書で紹介される人びとはそれこそ数多います。

あまりにも大きな括り方なので学識者や文化人全般への批判と捉えるのは問題があるでしょう。

おそらく中島みゆきマスメディアに顔を出して自身の学識を売り渡すような人びとについて歌っています。

テレビ・ラジオや一般の雑誌などに盛んに登場するような学識者や文化人を念頭に置いたのです。

学識者はそれぞれの非常に専門性の高い学術論文などで自身の見解を表明するのが実際でしょう。

テレビ・ラジオや一般の雑誌などで知識を売る学識者の方が異例なのです。

タレント的な学識者の多くは物事を大雑把に定義しがちなところがあります。

視聴者受けしやすい見識というものは専門性を問わない性格があるのです。

こうしたタレント的な学識者が世間というものを単純な見識でもって指弾することがあります。

一般大衆というものはこうした性質がある」などの論調で世間を斬った気になる愚かさ。

中島みゆきはタレント的な学識者が繰り出すこうした軽薄な論調を嫌うのです。

またいまでこそ風化した言葉に「象牙の塔の住人」というものがあります。

大学などの高等教育機関に携わる人びとを揶揄する言葉です。

学識者や研究者というものは一般社会に疎い世間知らずであるということをこの言葉を使って表現します。

世間知らずの癖に時代の風潮を斬った気になる人びとについての世間からの鋭い批判です。

中島みゆきも世間の側に同調してタレント的な学識者の底の浅さや愚かさを歌いました。

彼らの浅薄な言論というものがどうにも気に食わないという憤りを込めたのです。

なぜ「世情」でタレント文化人などのこうした傾向に触れたのかを考えることはとても大事でしょう。

中島みゆきは学識者や文化人などの権威が主張することは「世情」を表してはいないと歌いたかったのです。

では本当の「世情」を語っているのは誰であり、どこで本当の言葉が響いているのでしょうか。

そのことがいよいよ明らかになるクライマックスの歌詞を見ていきましょう。

最後に 私たちの希望の歌

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シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を 流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため

シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を 流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため

出典: 世情/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき

クライマックスの歌詞になります。

ご覧のようにサビのリフレインです。

繰り返しになりますが最後だからこそ明らかになることがあります。

ここで中島みゆきとコーラス隊が同じ歌詞を4回も繰り返して歌う意味を探りましょう。

彼女は再び目の前を過るデモ隊の声を聞きます。

つい先ほどまで彼女はタレント文化人の浅薄な言論を批判していました。

彼らは世間を斬った気になっているけれど滑稽極まりないと指弾したのです。

では本当の「世情」は誰が語り、どこで響くのかについて中島みゆきは答えを出します。

デモ隊の声にこそ「世情」が顕れている。

そして路上での光景に目をやることが「世情」を見極めるのに大切なことだと歌っているのです。

路上にこそ人びとの本当の声が集っているからこそ、この声から耳を逸してなるものかと考えます。

そこに込められた言葉は人びとの生活と生活意識に由来するものです。

「象牙の塔」に閉じこもって安泰な生活を送っている学識者にこの切羽詰まった声は出せないと歌います。

もちろん中島みゆきはこのデモ隊には加わっていません。

過去に彼女がデモに参加したかどうかなども知ることはできないです。

しかしテレビで得意気に自説を展開する学識者の教説よりも路上の声に彼女の魂は震えました

中島みゆきのこうした市井の人びとの本当の声を聞き遂げたいという思いは一貫したものです。

後年、ラジオ・リスナーから送られた投稿手紙の内容を「ファイト!」に結晶させました。

あたし中卒やからね 仕事をもらわれへんのやと書いた
女の子の手紙の文字は とがりながらふるえている

出典: ファイト!/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき

この有名な冒頭の叙述が実話に基づくことはあまりにも有名です。

中島みゆきは人びとのこうした本物の声にこそ「世情」を発見するアーティストであります。

デモ隊は行進を型取り路上を練り歩くものです。

示威活動という日本語がある通りに少女の声よりは大きなシュプレヒコールを発します。

しかしその言葉の根底にある生活感というものを中島みゆきは大切なものだと考えるのです。

政治的なメッセージにこうした解釈をすることをいまのリスナーは違和感を持つかもしれません。

デモという行為があまり日常的ではなくなった日本社会の現状がこうした認識を支えています。

しかし世界に目を向けると人びとがカジュアルにデモを行う姿が日々報道されているのです。

政治というものも本来は生活をどうやって組織するかという人びとの暮らしに根付いたものであります。

また「世情」が発表された時代は、日本社会でもデモは日常生活に近いものでした。

いずれにしてもデモ隊のシュプレヒコールには生活をよくしたいという夢が込められています。

その夢はこの社会に変化を求めたくない論壇の世界の人びとにとっては不愉快なものでしょう。

デモに対して不快感を露わにするタレント文化人はいつの時代にも多いです。

中島みゆきはここでデモ隊の具体的な主張に同調したかどうかは明示しません。

しかし言葉を使う人間として魂の根源からの声はどちらに重みがあるかをジャッジします。

あくまでもデモ隊のシュプレヒコールにその生活からの声という重さを感じたのです。

彼女は具体的な政策について意見したのではありませんが「世情」はどこにあるのかを明らかに示します。

そしてデモ隊が生活をよくしたいという夢のために闘っているということを情念で歌い上げるのです。

最後の言葉の凄みはデモ隊のシュプレヒコールの力強さにも負けないからこそ私たちの心を揺らします。

変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため

出典: 世情/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき

万感の思いが滲んだこの歌唱が時代を超えて私たちの心を奮い立たせるのです。

学識者ほど多くの知見はなくても私たちは意義のある重い言葉を声にできるということ。

これこそが「世情」の核心であり、一番大切なテーマなのです。

人びとの行く先に希望の光を灯したいという中島みゆきの作家性がこの歌詞に結晶しています。

「世情」という歌に抗うイメージが定着したのは有名なドラマがきっかけでした。

「3年B組 金八先生」の第2シーズン最終回の挿入歌に起用されたことが印象的です。

学校組織に抗う少年の感動的・衝撃的なシーンをもり立てました。

ドラマの放送翌日にはレコード店にアルバム「愛していると云ってくれ」の注文が殺到します。

この著名なエピソードについては説明不要でしょう。

いまはあまりにもドラマのストーリーと結びつけがちな「世情」の歌詞を本来の意味に引き戻す必要があります。

路上に集う人びとの声、テレビ・ラジオからの文化人の声、一体どちらが「世情」を映すのか。

中島みゆきが壮絶な歌唱とともに私たちに届けてくれた言葉たち。

根本的に人びとの希望に寄り添う彼女の作家としての姿勢から多くのものを学びたいものです。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEと中島みゆきの軌跡

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OTOKAKEには中島みゆきの関連記事がたくさんあります。

「世情」の発表から40年以上経っても彼女の作家性が変わらないことを証明しましょう。

進化樹」という2019年の楽曲の解説記事です。

中島みゆきの歌詞がまさに進化してゆく様子が見られるでしょう。

一方で「世情」と通底する希望への訴えも聴ける歌になっています。

渾身の解説記事ですので是非ご覧ください。

中島みゆきらしいあまりにも深い歌詞に驚嘆する楽曲「進化樹」。人間存在そのものへの問いかけをした名曲の歌詞を紐解いて解説いたしましょう。

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