素顔を一切公表しなかった伝説のカリスマ

甘くせつない歌唱力

「さよならぼくのともだち」は森田童子の記念すべきデビュー曲となります。

1975年に発売されていますから彼女自身は生粋のフォークソング世代といえるでしょう。

しかもデビュー時も大ヒット曲「僕たちの失敗」でも素顔は一切、公にしませんでした。

歌声を聴けば分かりますが、姿・容貌だけでは男性なのか女性なのか、判断に迷ったシンガーです。

その独特な歌い方甘くてか細くせつなさを思わせる歌唱。

全編を通して憂いと哀愁を漂わせるメロディ。

澄んだ高音は彼女のありのままの魅力を醸してくれています。

森田童子ワールドがふんだんに発揮されているこの曲は、熱烈なファンを誕生させました。

この曲が発表されるきっかけは、彼女自身の友人との実体験が元になっているそうです。

つまり大学紛争真っ只中に青春を過ごした彼女の生きる思いが込められた楽曲なのです。

森田童子の青春時代とは

森田童子は1953年生まれ。よって10代の多感な頃に様々な学生運動を肌で感じる機会が非常に多かったのです。

1960年代半ばになるとベトナム戦争反対などの運動を通して、再び学生運動が盛んになってきた。早稲田大学や慶應義塾大学などで学園紛争が起り始める(第一次早大闘争)。また新たに結成された三派全学連は、羽田闘争を皮切りに街頭で数々の武装闘争を繰り広げた。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/日本の学生運動

連日テレビで報道される学生運動のニュースは否が応でも彼女の考え方に影響を与えたのでしょう。

そんな矢先、彼女の友人が実際に学生運動に参加し、短い一生を終えたようです。

「さよならぼくのともだち」はこの時の原体験が元になって作られた楽曲なのです。

歌詞全体を通してみれば分かりますが、作中の登場人物は2人だけです。

恐らく森田童子自身と思わせる主人公とそのともだちです。

歌詞は過ぎ去った過去を抒情詩のような思いを込めて綴られていくのです。

それでは1番から順を追って、森田童子の世界をめぐっていきましょう。

「さよならぼくのともだち」は森田童子の回想録

主人公は男性?女性?

長い髪をかきあげて
ひげをはやしたやさしい君は
ひとりぼっちでひとごみを
歩いていたネ
さよならぼくのともだち

出典: さよならぼくのともだち/作詞:森田童子 作曲:森田童子

「さよならぼくのともだち」は全く同じ調子で歌詞が構成されています。

主人公のともだちを過去の思い出として回想する繰り返しが続きます。

そして主人公は歌詞中、自身のことを「僕」という言葉で表現しています。

そのまま素直に読み取れば主人公は男性になりますね。

しかし、この楽曲が森田童子自身の回想録という流れで捉えれば主人公は女性なのでしょう。

女性目線でみた「ともだち」についての観察眼が随所にちりばめられているのです。

ともだちの紹介からわかる当時の時代背景

この曲の時代背景は歌詞中のいくつもの言葉から容易に想像できます。

主人公が生きた時代は、学生闘争たけなわの1960年代から1970年代ですね。

当時の若者たちのファッションは「長髪」「ジーンズ」が定番でした。

しかし女性はそこまで定番ファッションではありません。

一部の男性のファッションが少々、不衛生っぽく映ったのです。

男性でも当時は長髪が当たり前でした。服装はジーンズが最もポピュラー。

無精ひげを生やすのも当時の若い男性には抵抗なく受け入れられていました。

反対に当時のサラリーマンたちは「モーレツ」という標語ができたほどの世代。

社会には相反する2大勢力が拮抗していたのが当時の時代背景だったのです。

主人公たちは大学生

夏休みのキャンパス通り
コーヒーショップのウインドウの向こう
君はやさしいまなざしで
僕を呼んでいたネ
さよならぼくのともだち

出典: さよならぼくのともだち/作詞:森田童子 作曲:森田童子