「ワールズエンド・スーパーノヴァ」の輝き

2002年2月20日発表、くるりの通算9作目のシングルワールズエンド・スーパーノヴァ」。

ハウス・ミュージックへの果敢な挑戦が話題になった楽曲です。

くるりシングルとしては最高のセールスを記録したこともあり思い入れのあるファンが多いでしょう。

世界の果てに輝く超新星という意味のタイトルで闇夜の中での私たちの希望のようなものを歌います。

くるりがここまでダンス・ミュージックへ振り切ったことは大変な驚きがありました。

アルバムごとにサウンドの志向をどんどんと変化させる彼らですがここまでやりきるのがスゴいです。

クラブ文化も全盛期と呼べるくらいの勢いがありました。

21世紀に入って私たちは夜をどのように超えてゆくのかというテーマを模索します。

このシングルの直後に4作目のアルバムTHE WORLD IS MINE」を発表したくるり。

アルバム・タイトルは新井英樹による異端の名作漫画にあやかっています。

「ワールズエンド・スーパーノヴァ」の歌詞にも元ネタの漫画と相通じる世界観を感じざるをえません。

くるりと岸田繁がこの曲で描きたかったものは何かを仔細に紐解いてみましょう。

なおこの曲のMVは岸田繁が監督しています。

このページからリンクを貼りましたので是非ご覧ください。

それでは実際の歌詞をご覧いただきましょう。

真実が知りたい

旅へ繰り出す前に思うことは

くるり【ワールズエンド・スーパーノヴァ】歌詞の意味を徹底解釈!重なるリズムに込められた想いを紐解くの画像

いつだって僕らは誰にも邪魔されず
本当のあなたを本当の言葉を
知りたいんです 迷ってるふりして

出典: ワールズエンド・スーパーノヴァ/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

歌い出しの歌詞になります。

登場人物は語り手の僕と親愛なるあなたです。

その他にもっと大勢の仲間であるみんなと僕らという主語が登場します。

人生における旅というものがテーマになっているのです。

旅といっても旅行というようなものではありません。

人生の意義を見出そうと毎日毎晩、街へ出て自分自身と人間存在を見出すような心の旅です。

私たちは生まれたからにはこの世界の秘密を知りたいと願う存在でしょう。

教育課程で様々な勉強をするのも必要な知識と智慧を授かることが本義です。

ただし教育過程をすべて終えても私たちには真実が何かなど見えてきません。

ここから先は多くの科学者や哲学者などから学んでゆく必要があるのです。

しかし書物とにらめっこを続けても袋小路に迷い込むのが実際の姿だったりします。

考えれば考えるほどに真実と呼ぶべき対象は遠ざかってゆくような錯覚さえするのです。

そこで例えばブルース・リーなどの映画人や黒人音楽家たちは逆転の発想を掲げました。

考えるな、感じろ」という有名な言葉に結晶する発想です。

一方で僕は考えることも感じることも排他しないようにしようと生きます。

本当のことって何だろうか。

それは言葉というものに修練されるものなのか、肉眼で目撃できるものなのか悩んでいます。

生きる過程でこうした迷いというものを知るその感性こそが素晴らしいものでしょう。

僕らも街も異邦人だから

くるり【ワールズエンド・スーパーノヴァ】歌詞の意味を徹底解釈!重なるリズムに込められた想いを紐解くの画像

僕は風になる すぐに歩き出せる
次の街ならもう名前を失った
僕らのことも 忘れたふりして

出典: ワールズエンド・スーパーノヴァ/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

人が風になるってどういうことだろうと思われるかもしれません。

僕は気ままに地球のあらゆるところにゆけるという心持ちの軽さを表現したのです。

長く歩き続けることも苦じゃありません。

もちろん僕が移動手段を徒歩に限ったというお話ではないのです。

人生を自らの足で地道に進んでゆくことを歩き旅に喩えています。

まだまだ不思議な歌詞が続くので注意しましょう。

世界の果てへの旅路でもあるので名前が意味をなさない街だって現れます。

ある意味で何でもありな世界観は柔軟な発想力によって鍛え上げられたものです。

フィクションというものはどこまでも自由な創造力・想像力によって支えられています。

この虚構の街は後に踊る際の舞台になるところです。

見知らぬ街を旅して歩くという僕。

僕の側から街を見ると未知の土地です。

しかし街の側から僕を見るとまた名前も分からないやつがやってきたと思われても仕方ありません。

僕らはこの街では異邦人に徹します。

自宅での録音風景

音楽用語が飛び交う世界

くるり【ワールズエンド・スーパーノヴァ】歌詞の意味を徹底解釈!重なるリズムに込められた想いを紐解くの画像

DO BE DO BE DA DA DO
スタンバイしたら
みんなミュージックフリークス
1.2.3でバックビート
ピッチシフトボーイ全部持ってって
ラフラフ&ダンスミュージック
僕らいつも笑って汗まみれ
どこまでもゆける

出典: ワールズエンド・スーパーノヴァ/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

ここからは音楽用語が並びますので必要な箇所は説明を加えましょう。

呪文のような箇所は「する」のか「ある・いる」のかという表現になります。

とはいえ呪文ですから意味を見出そうとする必要はないかもしれません。

スタンバイというのは準備状態のことを指しますが音楽用語でもあります。

音楽用語のスタンバイは録音待機状態なども指すのです。

一方で真空管を使用したギター・アンプでは電源スウィッチで温めた後にスタンバイのスウィッチをON。

真空管は温めるために30秒から1分を必要としますので待機状態に置いておくスウィッチがあるのです。

いずれにしても待機状態にしたらこれからこそ本番だよという思いを見せます。

音楽の狂信者たちが集う夜が始まるのです。

「する」のか「ある」のかは音楽に対する態度のことかましれません。

プレイヤーとして音楽と関わるのか、音楽がかかる場所に「ある・いる」ことにこだわるのかなど。

もちろんクリエイターとファンでは立場が違います。

しかし音楽を愛しているという思いは誰にとっても同じことです。

岸田繁は自身こそアーティストであってもあたかもファンのように音楽に驚きを感じたりします。

この空間ではみんなが平等な立場で音楽に接するのです。

「Pro Tools」の画面の中で

くるり【ワールズエンド・スーパーノヴァ】歌詞の意味を徹底解釈!重なるリズムに込められた想いを紐解くの画像

バックビートも音楽用語です。

主にダンス・ミュージックでのビートを指します。

またピッチシフトに関しては何のことやらと思うでしょう。

岸田繁はこの音源を「Pro Tools」という音楽制作ソフトで作っています。

「Pro Tools」は世界標準になっている音楽制作ソフトであり、PC上でスタジオを再現するのです。

巨大な予算を費やしてレコーディング・スタジオで録音することを好む音楽家もいます。

しかし実際のスタジオでの作業もPCが中心になっているのが現実です。

本格的な音楽スタジオでも「Pro Tools」が標準的なアプリケーションであります。

岸田繁はおそらくプライベートな録音環境に「Pro Tools」を導入しているのです。

巨大なスタジオでも6畳間の自室でも基幹となるソフトは「Pro Tools」であります。

岸田繁はこのアプリケーションに付属しているエフェクターの名前まで歌詞に登場させるのです。

それがピッチシフトという言葉の謎を解きます。

実は名前に謎の由来がそのまま表現されているのです。

ピッチ、つまり音程をシフトする、つまり移動させることをピッチシフトと呼びます。

細かいピッチの調整や大胆なピッチの移動などをすべてPC上で再現できるのです。

人力でこの仕事をするには相当な苦労がいります。

しかしピッチシフターというエフェクターを使うと1秒もかからずに音程を調整できるのです。

ラフというのはラフ・ミックスという言葉で使われます。

ミックス作業は感性までに段階を踏んでゆくものです。

その過程であらがきのような状態であるラフ・ミックスが存在します。

ダンス・ミュージックを自作している方はお分かりいただけるでしょう。

音楽家はこの制作工程のときに非常に熱くなってカタルシスを感じてしまうのです。

自分の頭の中に鳴っていただけの音楽が現実の空気を揺らすのを感じるのですから快感でしょう。

まさにこのまま深夜までいつまでも作業していられるという強い思いに駆られるのです。

真実を見つける旅とは自室で音楽制作を極めることと相似性があるのでしょう。