うらみます うらみます
あんたのこと死ぬまで
出典: うらみ・ます/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
あんたのしたことが法の裁きを免れることは上述したとおりです。
しかしあんたは別の形で裁きにあいます。
まず作中のあたしの生涯に渡る恨みというものを買うのです。
しかしこの恨みというものは強制力を一切持ちません。
もちろんあたしがゆく先々であんたのことを貶すかもしれないでしょう。
その言葉を信じる人はあんたという人物の評価を地に落として踏み潰すはずです。
噂という形でこの話が広まれば、あんたの社会的な地位だって脅かされます。
一方であたしがこの出来事を誰かに吹き込むにしてもできることは限られていると思わざるを得ません。
あたしはこの話をすべて赤裸々に話すと、さらに自分を傷付けてしまう可能性があるのです。
そうなるとあたしは泣き寝入りするしかないのでしょうか。
それではとても赦せないと奮い立ったのが中島みゆきかもしれません。
あたしに全身全霊で憑依して「うらみ・ます」という楽曲にしてリスナーの判断に委ねます。
リスナーの中であんたと友人に肩入れする人は皆無でしょう。
あんたと友人はリスナーの心の中でも恨まれてゆくのです。
この恨みの連鎖は実際に成功したからこそ「うらみ・ます」が永遠の名曲として讃えられます。
あんたも友人もあたしと中島みゆきとリスナーによって三重に断罪されるのです。
遠ざかるあんた
狂気が宿った雨の中で
雨が降る 雨が降る
笑う声のかなたから
雨が降る 雨が降る
あんたの顔がみえない
出典: うらみ・ます/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
歌詞の中で雨を降らすという手法は時折見られるものかもしれません。
女性が流す涙と雨粒というものを重ねた表現が好かれました。
しかしこの「うらみ・ます」の雨の描写には狂気が宿っています。
悪巧みを成功させたあんたと友人の高笑いと、あたしの涙のような雨というコントラストが怖いです。
雨という憂鬱なものと笑い声という取り合わせに尋常じゃない状況を思い起こさせます。
あたしの思いは天候までも左右したと感じさせるのです。
視界が効かなくなってもうあんたは雨粒のカーテンの向こうに消えてゆきます。
この男をそのまま社会の中に返してはいけないとすら思わされるのです。
あたしの慎ましい復讐とは
ドアに爪で書いてゆくわ
やさしくされてただうれしかったと
あんた誰と賭けていたの
あたしの心はいくらだったの
うらみます うらみます
あんたのこと死ぬまで
出典: うらみ・ます/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
あたしはあなたの家の扉に爪痕を残してゆきます。
あたしが巻き込まれた「悪」というものへの仕返しとしてはあまりにもささやかな復讐です。
フラれたばかりのときに話しを聞いてもらえて心を許してしまった過去は消したいものでしょう。
しかしあたしはこの記憶をむしろ生涯忘れないと誓います。
忘れないことであんたをいつまでも赦さずに断罪し続けるのです。
もちろん善意で失意の中に沈む女性を慰める男性もいます。
むしろこうした善意の男性の方が圧倒的に多いと信じたいです。
ただ、あんたは非道い男でした。
見ていただいたように女性を口説き落とせるかどうかで友人と賭けをします。
人の心はお金には替えられないものと私たちは素朴に信じているでしょう。
しかしあんたと友人は違いました。
あたし以外にもあんたの被害者はまだいるのではないかと思わされます。
この手の男性というのは残念ですが一定の数いるのです。
あたし以外にも多くの女性があんたを恨んでいるかもしれません。
それならばいずれどこかで女性問題で社会的な地位を失墜するでしょう。
しかしその失墜の瞬間まであたしは待つことができません。
あんたが次の女性を家へと誘ったときにあたしが扉に残した言葉が何かしらのダメージを与えるでしょう。
あたしは次に犠牲になる女性に向けて警告を発します。
これ以上、他の誰かが犠牲にならないためにあたしは本当の優しさでもってメッセージを贈るのです。
あたしは徹底して女性の味方となって誰かを守ろうという優しさを示します。
もちろんあんたへは復讐や打撃として機能する落書きです。
それもあんたの偽りの優しさに対してあたしは本当の優しさを提示して復讐しました。
ただし、あんたがした人の道として赦せない罪に比べると、あまりにもささやかな復讐かもしれません。
最後に 神の采配に慄える
「悪」に向ける率直な眼差し
ふられたての女くらい
おとしやすいものはないんだってね
ドアに爪で書いてゆくわ
やさしくされてただうれしかったと
出典: うらみ・ます/作詞:中島みゆき
そろそろ終盤の歌詞になります。
中島みゆきが書く歌詞はそれこそ様々なバリエーションがあるのです。
その中でこの曲「うらみ・ます」は比較的に情報量が少ない歌詞になるでしょう。
また、リフレインかと思わせるようにとにかく恨みごとを繰り言のように歌います。
恨みの強さというものがより鮮明に伝わるように中島みゆきはドラマの描写を最小限にしました。
あたしはあんたに一度持ち上げられてから床に叩きつけられるような思いをします。
元々、沈んだ気持ちでしたからいい気分にさせられたことでそのときは有頂天だったようです。
あたしはあんたに騙されたことについて自分の単純さまでも悔やんでいるかもしれません。
しかし恨みの気持ちを自分のうちに向けて勉強になったと片付けるようなことはしないのです。
あたしがあんたを赦すことは中島みゆきにとっては耐え難いことだからでしょう。
中島みゆきはあたしの恨みの気持ちを真っ直ぐに「悪」の在り処に向けたきりにします。
あたしのためにささやかな復讐の仕方を教えてあげるのです。
この男を信じてはいけないと次の女性に知らせるために扉に落書きをさせます。
この復讐が実るのかどうか中島みゆきは描いていません。
あたしを恨みの気持ちの中に固着させたままで歌は終わってしまいます。
そのためリスナーはあんたの身に報いや罰というものがのしかかる場面を見ることはできません。
「ます」という語尾とあんたとの距離
うらみます うらみます
あんたのこと死ぬまで
うらみます うらみます
あんたのこと死ぬまで
出典: うらみ・ます/作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき