一方的に終わった恋を嘆く男性と、それを過去のものと片付ける女性。
その『静と動』の関係性を比喩しているのは、なにも海だけではありません。
このミュージックビデオで出てくる『水』と『都市』。
これにもその対比において重要な意味が隠されています。
- 人工的で冷たく佇むビル群、すなわちそれを『都市』。
- それに対して、様々に表情を変える流動的な海を『水』。
この対比を表す表現がまさに、『静と動』の表現なのです。
『海』のような女性との恋に溺れる男性と、それを俯瞰して眺める女性。
この2人の関係性は、『水』と『都市』との関係性に重ねられたものでした。
繰り返される悲痛な叫び
現実を受け止めきれない
最後に繰り返され、とても耳に残り特徴的な歌詞である『この海にいたい』。
上述の通り『女性=海』という表現で展開されるこの曲において、この言葉は重要な意味を持ちます。
いつまでも女性の元に居たかったけれど、その想いは叶わないものとなってしまった。
そういう、後悔の念が、波のように絶え間無く襲ってくる様子を表現しているのです。
最後に2人揃って海辺を歩くシーンや、シャワーの中で抱き合う姿からも、その気持ちが伺えると思います。
冒頭で映し出された海へ身を投げる男性の映像は、そんな背景をベースに描かれたものだったのです。
タイトルに込められた意味
何故『ナイロン』なのか
そもそも『ナイロン』とは、というところを調べてみました。
ナイロンはご存知の通り、ストッキングなどに使用される合成繊維です。
Wikipediaでは下記のように記されています。
ナイロン(nylon)の名称は、「伝線(run)しないパンティストッキング用の繊維」を意図した「norun」に由来する。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ナイロン
この意味から、タイトルに込められた男性の想いとしては、下記のようなものだと推測できます。
- 今後いつまでこの想いを引きずり続けても切れることはなく、ずっと忘れられないだろう。
- 自分に対する女性の想いは、伝線して穴が開くことがないように、戻ってこないだろう。
悲痛なまでに後悔する男性の心境が見事に表現されているのです。
しかし、隠された意味がこれだけで終わらないのがサカナクションのすごいところです。
Wikipediaでは下記のようにも記されていました。
ナイロン登場前に絹の圧倒的シェアを誇っていた日本に対して「Now You Lousy Old Nipponese」(古い日本製品はもうダメだ)の頭文字をとったという説もある。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ナイロン
この文章の中で、『絹=男性』に置き換えて読み解いてみましょう。
そうすると、さらに男性の心の痛みが増していることがお分かりいただけるかと思います。
つまり、どういうことか。
男性は今まで自分が相手の女性の心の中を埋め尽くしていたはずだと思っています。
しかし、別れた今となってはもう過去のことなのだ、という意味なのです。
どれだけ後悔しても、どれだけ想っても、絶対に戻ってこない関係性であることを表しています。
まとめ
激しすぎる後悔と失意の念を、海や都会といったものと重ねて表現された『ナイロンの糸』。
いかがだったでしょうか。
ライブでも映像や光を多用するサカナクションらしく、ミュージックビデオも秀逸です。
しっかりとその世界観を表現し、眼と耳を通して楽曲のイメージを心に届けてくれます。
これで、サカナクション『ナイロンの糸』のミュージックビデオの解説は終わります。
【補足】ミュージックビデオのプロデューサーについて
ちなみに、このミュージックビデオをプロデュースしたのは山田智和さんという方です。
なかなか表に出てくる役柄ではないと思いますが、実はYouTubeで3億再生された楽曲も手掛けています。
皆さんも一度は見たことがあるであろう大ヒット曲、米津玄師さんの『Lemon』のミュージックビデオです。
楽曲の素晴らしさもさることながら、映像という点でも見事だった『Lemon』。
そんなプロデューサーさんの作るミュージックビデオですから、サカナクションにもハマったのでしょう。
他にも、あいみょんさんの『マリーゴールド』のミュージックビデオもプロデュースされていたりします。
こうして、大ヒットする曲のミュージックビデオにも関連性があったりするので調べてみると面白いものです。