彼女は心のどこかで「このままではいけない」と感じているのでしょう。
しかし「貴方」はそれを見抜き、正しい世界に向こうとする彼女の思考を麻痺させます。
忠誠心の塊となった自分と、足を止めようとする自分が、彼女の中でせめぎ合っています。
今さら鈍さを増して行く浄化
それもいつかは終わるのさえ信じられない
出典: 茨の海/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ
いわば「洗脳」されているような状態です。それを彼女は「浄化」と表現しています。
鈍くなっているのは洗脳力ではなく、洗脳に対する「反応」と考えます。
つまり彼女の中に「洗脳されていない部分」はあまり残っていないのです。
そしていつか訪れる終わり。
洗脳され切って終わるのか、彼女に残る「正気」が打ち勝つのか分かりません。
そしてこの後、サビを繰り返します。
進む道が正しくなくても歩いていく、と再び忠誠を誓います。
「茨の海」Cメロで貴方が放り投げる物の本質が見えた
低空を滑る私の非力な強さ
足元に在る例えば無機質な
追い風 視界 笑い顔を 両手で掬い上げても
ねぇ喚く想いは何処へ?
出典: 茨の海/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ
低い高さで飛び続ける彼女の足元にあるもの。
明るい要素・明るい単語でありながらそれらは「無機質」だと彼女は言いました。
無機質な笑顔なんて、作り物でしかありませんよね。
無機質な追い風は人為的なものに感じますし、無機質な視界は誰かに強いられて見る景色です。
おそらく、それを与えてくれたのは「貴方」なのでしょう。
両手でなければ抱えられないぐらいあるけれど、やはりどれも無機質なのです。
これらが無機質でなければ忠誠を誓えたかもしれません。
これらが無機質だから正気でいられるのかもしれません。
せめぎ合いは終わりません。
「茨の海」ラストで彼女が最初で最後の反抗をした
貴方の放り投げた祈りで 私は茨の海さえ歩いてる
正しくなど無くても 無くても 無くても
在りったけの花で飾って そして崩れ落ちて 何度でも
正しくなど無くても 無くても 無くても
響いて 貴方に
響いて
出典: 茨の海/作詞:鬼束ちひろ 作曲:鬼束ちひろ
無機質な優しさが広がる海を彼女は歩いています。
正しいか正しくないかなんてもう、どうでもいいのです。
しかし、ここで彼女は唯一の「反抗」をします。花を飾るのです。
花は命あるもの、つまり有機物。それを飾ることで、彼の無機質な思いに意味をもたせようとします。
この行為もまた、正しいのかどうか、彼女自身にも分かりません。
正しいか正しくないかなんてもう、どうでもいいのです。
「本当の貴方は無機質な優しさを放り投げるような人ではない。目を覚まして」
貴方に気づいてもらえるように、花を飾り続けます。
果たして、彼の胸に響いたのでしょうか。
PVの空の色が、紫色から群青、そして紫色へと戻ってきたのを覚えていますか?
つまり、純粋に愛し合っていた頃に戻ってきたのだろうと私は結論づけました。
聴けば聴くほど深みにはまる鬼束ちひろの歌詞の世界
「茨の海」の世界観を読み解いてみました。あまりにも突飛な解釈でしたでしょうか。
読み解く側のメンタルや根底にある考え方によって、何通りもの解釈ができるはずです。
今回はDVというマイナスイメージな世界にとらえました。
別の見方をすれば、相手を溺愛する女性の歌とも解釈できますよね。
鬼束ちひろが書く歌詞の魅力は、リスナーに想像の余地を与えるという点にあるのでしょう。
鬼束ちひろの楽曲には「茨の海」以外にも深読みが楽しい曲があります。
ぜひ聴いてみてくださいね!
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