あまりに文学的な「街の灯り」
堺正章の歌唱に磨きがかかる
作詞は阿久悠で作曲が浜圭介という豪華な布陣です。
寂しさを切々と歌いながらそこから新しい愛が生まれるクライマックスが見事であります。
阿久悠の歌詞は無駄な言葉が一切ない短いものなのですが一遍の小説を読んでいるような錯覚に陥る。
堺正章の歌唱も素晴らしい表現力で勢いに乗っている時期の充実感が漲っています。
若い方には堺正章が芸能界の大御所である理由をこの歌の歌唱に聴いてみて欲しいです。
リアルタイムでこの作品に触れられた幸運な方は昔日の青春の面影をもう一度振り返ってください。
堺正章のソロ・キャリアでは「さらば恋人」と並ぶ別格の名曲「街の灯り」。
昭和歌謡の歴史にその名を刻んだ名曲「街の灯り」の歌詞を紐解いて解説します。
堺正章、阿久悠、浜圭介。
若い方には3人の天才ぶりに驚いたりしつつこの曲の魅力を知ってもらえたら嬉しいです。
歌詞を見ていきましょう。
寂しくていたたまれない日
堺正章の抑制された歌が凄い
そばに誰かいないと沈みそうなこの胸
まるで潮がひいたあとの暗い海のように
出典: 街の灯り/作詞:阿久悠 作曲:浜圭介
少々、不穏に感じる歌い出しの歌詞です。
いきなりドラマの核心部分に放り込まれるような気持ちを抱かせるのが阿久悠らしいところ。
堺正章の低く抑えた歌声が素晴らしいです。
彼の歌は大きく高く何処までも伸びてゆく声も素晴らしいのは周知のこと。
しかし感情表現をぐっと抑えた歌い方も美しく魅力的です。
グループ・サウンズ時代とは違う歌い方を身に付けています。
そしてソロ・デビュー・シングル「さらば恋人」などと較べても声量が増しているのです。
声の質も男らしく太くなりました。
「さらば恋人」から僅か2年しか経っていない時点でこれだけの飛躍を遂げたことが凄いです。
阿久悠の歌詞は寂しくていたたまれない気持ちを海の潮の満ち引きでの水面の変化に喩えます。
鈍く暗く静かな海の姿です。
文学であり詩である。
阿久悠の天才作家ぶりはこの頃から光り輝いています。
次の歌詞を見てください。
寄り添う人がいてくれる幸福
GSのスターの才能開花
ふれる肩のぬくもり感じながら話を
もっともっと出来るならば今はそれでいいさ
出典: 街の灯り/作詞:阿久悠 作曲:浜圭介
ここでも力をふっと抜いた堺正章の歌唱力に惚れ惚れします。
低音に含みが出てきていよいよ自在に歌をコントロールできるようになった時期でしょう。
グループ・サウンズ時代の若さも好きですがソロ・シンガーになってからの大人の歌手への成長と変貌。
そしてこの時期はテレビ・ドラマなどで父親譲りの演技力を発揮していた時代。
堺正章の才能が一気に花開く瞬間にリアルタイムで立ち会えた人は幸運だなと思う次第です。
堺正章だけでなくグループ・サウンズ出身のシンガーたちが新しい時代にどう生きていくのかを模索。
沢田研二のように、萩原健一のように、素晴らしい個性がいずれ大輪の花を咲かせるのです。
グループ・サウンズ時代から応援していたような人々は彼らの新境地をどんな想いで見守っていたのか。
とても気になります。
このサイトに訪れる若い人たちにもっともっとこの頃の大スターたちの魅力を教えて欲しいです。
分け合える愛を持ち寄る
歌詞の方は少し安心させてもらえます。
この寂しさに潰されそうな孤独な青年のそばには寄り添ってくれる女性がいました。
辛い思いや寂しさをシェアできる人間関係はとても重要なものです。
家族や友人、そして恋人。
人間は根本的に孤独を強いられる生き物です
それでもお互いに優しさを持ち寄って愛を分かち合うことで相互理解ができます。
大事なのはいつも何かしらの愛です。
孤独な状況で抱えた愛ではなく複数の人間で分け合う状態にある愛が大事なのでしょう。
肩の触れる距離にいる女性とこの青年の行末が気になるところ。
次の歌詞を見ていきましょう。