「STRAY SHEEP」のはじまりを飾る曲
「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたナンバー
2020年8月5日にリリースされた米津玄師のアルバム「STRAY SHEEP」。
「Lemon」や「感電」といったメガヒット。
そして「パプリカ」「まちがいさがし」といったセルフカバーを集約した一枚です。
RADWINPSの野田洋次郎とのコラボ楽曲「PLACEBO」もあり、驚かされた方も多かったのではないでしょうか。
そんな中、アルバムの為に書き下ろされた楽曲にも注目が集まりました。
リードトラックでもある「カムパネルラ」。
宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」をモチーフに描かれた一曲です。
この一曲は8月4日に山田智和監督によるMVが公開されています。
その前日に公開された「F#」などが並ぶ謎めいた映像も話題を呼びました。
美しく上品さを感じさせながら、悲しみとそこはかのない暗さを抱いた映像美。
そうしたMVの演出もあり、リリース当初から多くの注目を浴びた一曲となりました。
「STRAY SHEEP」を総括する一曲
この「カムパネルラ」は、「STRAY SHEEP」全てを通じて一番最後に制作された曲。
そんな制作秘話が米津のインタビューなどで語られています。
そもそも「STRAY SHEEP」というアルバムは「Lemon」の大ヒット後に制作された一枚。
メガヒットとなった作品をどう自分の作品として落とし込んでいくか。
その試行錯誤が「STRAY SHEEP」には感じられます。
愛しい人との死別と悲しみを歌った「Lemon」。
その一曲と共に物語を組み立てることを考えた時、作り出されたのが「カムパネルラ」でした。
これは大切な人を亡くし遺された人間の歌だからです。
死別に向かい合う一曲。
それこそが「Lemon」というあまりにも大きくなってしまった一曲を物語に組み込む方法。
そして「STRAY SHEEP」という物語を完成させるために必要な一曲だったのです。
そんな「カムパネルラ」という一曲を、歌詞から丁寧に紐解いていきましょう。
遺されたものの想いとは
少年「ザネリ」の視点で描かれる情景
カムパネルラ 夢を見ていた
君のあとに 咲いたリンドウの花
この街は 変わり続ける
計らずも 君を残して
出典: カムパネルラ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」をベースにしている本作。
物語の主人公はカムパネルラという少年と、ジョバンニという少年です。
ですが米津がここで視点を置いたのは、物語では脇役のような少年「ザネリ」だと語っています。
ザネリはカムパネルラと仲が良く、ジョバンニのことはからかっていじめるような素振りを見せていました。
そんなザネリは川に灯りを流すお祭りではしゃいで川に落ちてしまいます。
カムパネルラは自分も川に飛び込んでザネリを助けましたが、自らは溺れて命を落としてしまうのです。
ザネリはそのまま家に帰されます。
自分の不用意な行動で大切な友達を死なせてしまった。
それはあまりに大きな罪の意識です。
リンドウは美しい花ですが、強い苦みを含んだ存在。
花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。
大切な友人の死に悲しんでいる自分への周囲の同情なのでしょうか。
けれど世界はいなくなってしまった人を置き去りにどんどん進んでいきます。
リンドウの花は「銀河鉄道の夜」の物語内にも登場します。
「夢」でその風景を見ることも、二人の住む世界がもはや違うことを象徴するのかもしれません。
逝ってしまったものと遺されたもの
真昼の海で眠る月光蟲
戻らないあの日に想いを巡らす
オルガンの音色で踊るスタチュー
時間だけ通り過ぎていく
出典: カムパネルラ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
「月光蟲」「スタチュー」と韻を踏む一節。
戻らないあの日とは大切な人と共に笑い合えた日々のことでしょうか。
夜に光る月光蟲は昼間には姿が見えません。
スタチューも月光蟲と同様、動くはずのないものが動いているといった意味合いでしょう。
オルガンや踊るという言葉からは楽しくにぎやかな雰囲気が伝わってきます。
君を失って時間がとまったままの自分にとって、それは空々しさを感じるもの。
君がいなくなっても世界は進み続ける。
その残酷さ、切なさに目を向けるような言葉です。
手が汚れていく理由とは?
生きていく限り汚れ続けていく
あの人の言う通り わたしの手は汚れてゆくのでしょう
追い風に翻り わたしはまだ生きてゆくでしょう
終わる日まで寄り添うように
君を憶えていたい
出典: カムパネルラ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師