静かにそして大きなヒットソング
1987年に発表されて以来、テレビコマーシャルや番組挿入歌で使用されているこの曲。
サビの部分はなんとなく懐かしさを感じる人も少なくないでしょう。
透明感のある優しい歌声と、誠実で繊細なピアノの旋律が歌詞を引き立てます。
過ぎ去った恋を想いながら主人公はどんな夜を重ねているのでしょうか。
「もう一度夜を止めて」の歌詞を読み解いていきましょう。
窓の向こうに見るものは
面影が忘れられなくて
時間を忘れるように
窓のシェイド
羽根を傾け
腕を組んだ細い肩に
長い髪が震えていた
もう一度だけ夜を止めて
あの日をこのまま抱きしめたい
出典: もう一度夜を止めて/作詞:秋元康 作曲:崎谷健次郎
恋人同士が長く付き合っていくと、わかりすぎるくらいわかるということがあります。
相手の気持ちの動きやこれから先のこと全てがなんとなく見通せてしまう。
カップルによっては、お互いの気持ちがわからず終わってしまうこともあるのに。
二人に訪れた「予感」が本当に正しいのかは誰にもわかりません。
しかし、終わりへのカウントダウンは二人が共通で感じていること。
なぜ、こんな日を迎えることになってしまったのか。
どこで二人の関係が狂いだしてしまったのか。
そんな考えても仕方のないことがふと頭をよぎります。
窓を挟んで向こうの世界とこちらの世界は大きく隔てられているよう。
それはまるで楽しかったあのころと今との間に、隔てられた壁のようです。
何を見ているの
愛し合っている間であれば、相手の目線に動揺することはありません。
例え離れていようと、違うことをしていようと二人の気持ちは重なっています。
相手の目の中に何が写っていようとも関係ありません。
いつだってそれぞれの心の奥底には二人共通の未来があったからです。
心が離れてしまった今、二人の目線の向こうには違う景色が広がっています。
主人公の恋人だった彼女は雨の中にどんな景色をみているのでしょうか。
主人公の存在しない未来のこと。
それとも、終わってしまった恋のこと。
重なることのない彼女の心の動きを主人公はただ見つめていることしかできないのです。
止めることのできない時間
愛することの意味は
これ以上愛し合っても
2人同じ夢が見れない
知らぬ間に すれ違っていた
甘い記憶に 何かがこぼれてく
もう一度だけ夜を止めて
何も言わずに 接吻たい
頬に落ちたその涙
思い出だけでは悲しすぎるね
出典: もう一度夜を止めて/作詞:秋元康 作曲:崎谷健次郎
男女が出会い惹かれ合い恋が始まります。
恋人としての関係は、最初は共に時間を過ごすだけでも満たされて感じられます。
関係が成熟するにしたがって、精神的な充足を必要とするのが一般的でしょう。
精神的な充足とは、支え合うこと尊重し合うことなど。
そして、二人が手を取り合って同じ未来に向かおうとする気持ちです。
二人で何かを目指し、作って行こうとすることで結びつきはより強固になります。
主人公と恋人は、そこに行き着くことが難しかった。
もしかしたら、途中まではそれを目指していたのかもしれません。
しかし、いつの間にか二人が見ている夢が違っていたようです。
共に過ごす時間は楽しく離れがたいと感じつつ、これ以上にはなれない二人。
もどかしさはやがて別れに向かっていったようです。
最後にもう一度
手を伸ばせばすぐに届き、そして抱きしめることができる。
頬に唇を寄せることもできる距離。
心が離れてしまった今も、それは変わりません。
手を伸ばせば彼女のぬくもりはすぐそこで感じられます。
しかし、いくら抱きしめても、唇を重ねても虚しさと悲しみしかありません。
しっかりとこちらを向くことのない気持ちが返って伝わりくるだけです。
相手を思う心が少し残っているからよけいにそのことがわかる悲しさ。
彼女の体を引き寄せることはできても、心は引き寄せられない。
主人公はもう彼女の涙を止めることはできないのです。