恋をしているときは、時間の流れが早く感じられます。
そして、二人の気持ちが最高潮に盛り上がれば時が止まって感じられることも。
恋が始まり愛し合い、二人の気持ちが同じ方向を向いた瞬間。
それは、しっかりと記憶に残っていたりします。
しっかりとした絆ができた瞬間から、それまでとは違う日が始まるのです。
その瞬間を重ねていくことで二人の絆は強くなっていきます。
あの幸せなその瞬間は永遠に感じられることもあるでしょう。
そうやって紡いだ絆がほどける恋の終わり。
その有様をどうすることもなく眺めながながら主人公は何を思うのでしょうか。
二人の夜
過ぎた恋の景色は夜に思い出すことが多いように感じます。
昼間は仕事などに忙しく思い出す間がないせいでもありますが。
ひとりぼっちの長い夜、二人で過ごした時間を懐かしく思い出します。
もしもあの夜、違う行動をとっていれば別れることはなかったかもしれない。
いや、いずれは別れる運命だった。
そんなことを逡巡しながら夜は深まります。
楽しかったこともたくさんあった恋なのに。
なぜか心に浮かぶのは悲しい表情の彼女と頬を伝う涙だけです。
出るはずのない答えを探しながら、主人公は遠い彼女に思いを馳せます。
思い出に変わりゆく
まるでフィルムのように
過ぎた日々はナイフのように
美しいほど傷つけるものさ
もう一度だけ夜を止めて
あの日をこのまま抱きしめたい
見つめ合ったその瞳
無理に微笑んだ 君はやさしい
出典: もう一度夜を止めて/作詞:秋元康 作曲:崎谷健次郎
継続中の恋をその途中で振り返ると、良いことも悪いこともよみがえります。
それは自分にとってその恋が今も現実であるからです。
過ぎ去った恋を思い出すときにはなぜか良いことばかりが浮かぶもの。
振り返った思い出が美しいとき、それは終わってしまったことを意味します。
一旦終止符を打ち終わったものは、もうそれ以上がんばる必要はありません。
乗り越えなければならないものがなくなれば、そこには美しさしかないのです。
主人公はそれがわかっているからこそ、美しくなった思い出に傷つけられます。
戻ることのない彼女の心、そして二人の恋。
幸せな思い出は今、つらさとなって主人公の悲しみを深くしていくようです。
彼女の気持ち
恋の終わり際、何かを止めるように主人公に抱きしめられた彼女。
彼女の気持ちはどのようなものだったのでしょうか。
気持ちが通い合っていたときであれば、瞳の奥の相手の気持ちを疑うことはありません。
見つめ合うことで、安らぎが流れ穏やかな気持ちに包まれます。
終わりを迎えた相手の瞳の奥にはもう何も感じられません。
見つめ合うことで相手の気持ちを探ろうとする気力もありません。
何かを見ることをあきらめて力なく微笑む、彼女にできるのはそれくらいです。
一時であれ愛した相手であれば、別れ際に深く傷つけることを望みません。
どちらにとってもこの恋は必要であったし、別れだって必然。
恨み言を言うこともできるけれどそれは、百害あって一利なし。
別れは二人それぞれが幸せに向かうための必要悪と思いたい。
彼女はそんな風に考えているのではないでしょうか。
僕ができる最後のこと
もう一度だけ夜を止めて
あの日をこのまま抱きしめたい
重いドアを そっと閉めて
僕の影を愛で消して
出典: もう一度夜を止めて/作詞:秋元康 作曲:崎谷健次郎
終わってしまった恋は基本的には戻ることはありません。
特に、嫌いになったわけではなく別れる場合はなおのことです。
別れると決めたのなら、きっぱりと線をひくことが最良の方法。
恋があったときとなかったとき。
その間にしっかりドアを置いて閉めてしまうことで、前に進めます。
二人がしっかり愛し合っていた瞬間、そして別れを決めたそのとき。
どんなに望んでもそれは「もう一度」この手に戻ることはありません。
ぐずぐずと相手を引っ張るよりもけじめをつける。
それが今、主人公が彼女のためにできる最良のことです。
二人の恋心、愛が絡まり合うことはもうありません。
しかし、主人公を想う愛情のようなものがまだ少し残っているのであれば。
彼女にはそれを使って、終止符をしっかり打って欲しいと主人公は願います。
それが、結局は二人が愛し会ったことの証になるのだから。
溢れる思いを抑えながら、主人公は最後の愛を彼女に向けています。
もう二度とない夜へ
ロングヒットソング「もう一度夜を止めて」の歌詞を独自目線で読み解きました。
人生の中では「もう一度」やり直したいことが一つや二つあります。
できればあの瞬間を止めてそこに戻りたいと思うことも。
しかし、それは当たり前ですが不可能です。
主人公は何度も別れのシーンを思い返しながら、不可能を望んでいます。
人との結びつきはそれ自体が生き物のよう。
瞬間が過ぎてしまえば、元の関係に戻ることはなかなか難しいものです。
それをわかっているであろう主人公はそれでも「もう一度」を願います。
彼が、その場に戻りたいその理由はいったい何なのか。
それは、彼女の涙を拭きたいただそれだけなのかもしれません。
どうにもならない切ないラブストーリー、そして優しい男心。
痛みの中に暖かさを感じる一曲です。