月へ行くことは絵空事なんかじゃない
みなさんもご存知のとおり、月へ行くことは「絵空事」つまり決して不可能なことではありません。
60年ほど昔、すでに人類は月面着陸に成功しています。
また2023年には株式会社ZOZOの元社長、前澤友作さんが月旅行へ行くことになっています。
優しく寄り添ってくれる彼らが月へ行こうと誘ってくれるなら、私たちも本当に月まで行けるのかもしれない…!
あまりに心地よい夜のせいでそう信じてしまいそうな不思議な説得力があります。
たどり着けないとあえて言ってしまう意味
しかし自分で誘っておきながらぼくは、たどり着けないなんて言葉をあえて口にします。
月にも行けそうという気分になっているところに、なぜかこの言葉。
これは「実際に月へたどり着けるかどうかは問題ではない」という、本曲の重要なメッセージであると考察します。
理由は後ほど。
物語の重要な転換点
Open your eyes
Listen to your heart
Open your mind
出典: to the moon/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo kakudate
英語のフレーズが差し込まれます。
実は、最初の「to the moon」というフレーズ以外で英語詞が出てくるのはこの部分だけです。
さすがシティ・ポップの最先端と唸らされる絶妙さですね。
そしてここは、本曲の世界観において重要な役割を果たしているパートであると推測できます。
英語部分をざっくり訳してみました。
目を開けて
心の声に耳を傾けて
心を開いて
ヨガを経験したことがある人はピンとくるかもしれないのですが、これは「瞑想」をするときの心の状態に近いです。
きっとぼくは心の中でもう月に向かいはじめているのでしょう。
そして君であるリスナーと月へ行く空想を共有したいという想いを感じとることができます。
舞台は心の内側へ。物語はここで一度区切りを迎えます。
リスナーを内面世界へとさらに引き込んでいく
だって何年たっても君に
何年たっても君に
何年たっても君と
夜に溺れる ぼく
出典: to the moon/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo kakudate
ここで同じフレーズを繰り返すことで、まるでこれまでの物語を振り返って凝縮しているかのようです。
実はこの言葉はAメロでも一度だけ登場していたことにお気づきでしょうか。
きっと彼らはこれまでずっと、東京での夜をたゆたうように過ごしてきたのでしょう。
繰り返す毎日を心地よく締めくくるために。
そして彼らはこれからもずっと、たゆたう夜を過ごしていくのでしょう。
ただし、そんな夜をリスナーと共有したい。
そんなメッセージがここには込められているのではないのでしょうか。
大サビですべてが語られる
大人になって
自由になった
空を跨いだり
瞳に落ちて
ねえ 月まで行こうよ
「たどり着けないぜ」
そんなセリフには
最低さ!そんな言い訳は!
言葉にまみれ
なにも言えなくても
ねえ 月まで行こう さあ
たどり着けない 生き物のようにね
出典: to the moon/作詞:Kengo Kakudate 作曲:Kengo kakudate
これまでの空気感はそのままに、「そんなセリフは最低な言い訳」という憤りの言葉が入ります。
あまり語気の強い言葉が本曲では出てこなかっただけに、この部分はとても印象的です。
あえてパンチの効いた歌詞を加えることで、うまく緩急がつけられているように聴こえます。
ここでこういう言葉のチョイスをするところもYogee New Wavesらしいですね。
大人になると自由になる?
クライマックスということもあって、畳み掛けるように言葉が紡がれています。
出だしの部分で、「大人より子供のほうが自由なんじゃない?」という違和感を覚えなかったでしょうか。
これはおそらく、さまざまなことを知り、経験していくことで培われてきた想像力を指していると解釈します。
想像力が豊かな大人のほうが、心は自由であるという意味なのでしょう。
「人は知らないことは想像できない」という言葉があるように、です。
「to the moon」はメッセージソングである
東京で暮らす人ならおそらく誰もが感じる、この忙しなさ。慌ただしく目まぐるしく過ぎる毎日。人混み、喧騒。
そんな東京にときどき疲れることもあれば、逆に愛おしく感じることもあるでしょう。
ただもし疲れてしまったとき、うまくいかないことがあったときは、いっそこれまでの日々とさよならをする。
まるで時間の止まったような夜を過ごして、今日を心地よく締めくくる。
前半でも触れましたが、これらは曲の中で完結した物語ではなく、リスナーに向けたメッセージなのでしょう。