永遠の名曲『ENDLESS RAIN』
『ENDLESS RAIN』前日譚
『ENDLESS RAIN』は皆さまご存知の通りメジャーデビュー作『BLUE BLOOD』に収録されています。
現在のファンにとってX JAPANの美しいバラードナンバーはなくてはならないほどに大きな存在です。
しかし当時のX JAPANの世間でのイメージは喧嘩っ早く破天荒な生活に明け暮れるハードコアなバンドでした。
YOSHIKIと当時のディレクターの津田氏は更に広範囲なファンを獲得するために初めての試み行ったのです。
その構想は時代を超えて聴き継がれるような、メジャーキーを使用したバラードナンバーを作ることでした。
すべてのイメージを覆すバラード

新しいファンの方も動画サイト等で見たことがあると思いますが...。
インディーズでは絶大な人気を誇っていたX JAPANの知名度をお茶の間にまで広げたきっかけ。
それは「天才たけしの元気が出るテレビ」への出演でした。
「キワモノ」と呼ばれてもいいからとにかく多くの人に存在を知ってもらおう。
そう考えたYOSHIKIはテレビで動画のようなパフォーマンスを行う決意をしたのです。
演奏されているのは同じく『BLUE BLOOD』に収録されている『オルガスム』の初期ヴァージョン。
多くの方に知っていただいた代償は彼らへの嫉妬として表面化していったそうです。
心ない声への怒りから当時のX JAPANは荒んだ暮らしをするよりなかったのでしょう。
世間の評価を塗り替えるほどのインパクトを与えるために生み出された楽曲。
それが『ENDLESS RAIN』だったのです。
終わらない雨が降る...
all of the hate,all of the sadness

ENDLESS RAIN/X JAPAN
Endless rain,fall on my heart 心の傷に
Let me forget all of the hate,all of the sadness
出典: ENDLESS RAIN/作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI
『ENDLESS RAIN』の魅力をどう言い表せばよいのでしょう?
悲しみにくれる主人公をヒロイックに描いた歌詞、そして心に沁みわたるメロディー...。
サビの煽情性を補完するのは感情を抑制したAメロ&Bメロという旋律のバランスです。
サビで描かれるあまりにも有名なフレーズは聴くものの内面にまで深く沁みわたっていきます...。
“傷ついた心に降り注がれる永遠に終わる事のない雨
すべての憎しみを、すべての悲しみを忘れさせてください...”
この「終わらない雨」とは一体どのような心理を描いているのでしょう?
ここからは『ENDLESS RAIN』の歌詞に秘められた意味を検証していこうと思います。
ここで渋いのが”Let me forget”という使役動詞を用いた命令文によって痛烈なニュアンスを出していることです。
英語の使役動詞は主にmake・have・let・getがあります。
その中でわざわざlet(許可)を用いているのが凄く適切で渋いでしょう。
すなわち「忘れさせてくれ」と神様に許可を得ようと必死な位、全ての憎しみ・悲しみを堪えています。
命令文というのは英語の助動詞以上に話者の主観がダイレクトに出る箇所です。
X-JAPANは英語の歌詞を多用します。
しかし単なる格好つけではなく文法の意味用法を正しく理解してお使いになっています。
だからこそ、そのロックな曲調やテーマと合わせて国内外で凄まじい人気を誇っているのではないでしょうか。
「PSYCHEDELIC VIOLENCE , CRIME OF VISUAL SHOCK」
歩み続ける暴力と罪にまみれた美しき世界
I'm walking in the rain
行くあてもなく 傷ついた体濡らし
絡みつく凍りのざわめき
殺し続けて 彷徨う いつまでも
Until I can forget your love
出典: ENDLESS RAIN/作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI
「PSYCHEDELIC VIOLENCE , CRIME OF VISUAL SHOCK」
『BLUE BLOOD』のジャケットにも描かれている初期のX JAPANのメインテーマです。
華やかで美しい世界は暴力と罪によって流された血液にまみれている。
YOSHIKI、そしてX JAPANのメンバーは退廃的な世界を生きてきました。
そんな彼らは新天地を求めてメジャーレーベルとの契約を決意したのです。
そこで彼らはシビアで、退屈な現実の世界と対峙する必要がありました。
清潔で安全なシステムに飼いならされてはいけない。
そう考えたYOSHIKIはより一層の刺激を自らの肉体に課していったのです。
以下の英詞部分の和訳を見てみましょう。
“俺は雨の中を歩んでいる~君の愛を忘れることができるまで...”
自らの感じる衝動を貫き通すためには愛する人への想いを断ち切る必要さえもあったのです。
ここで「雨」が単なる比喩表現ではなく、現実世界にX-JAPANを襲った困難という具体的なものであることが分かります。
それが分かるのは1行目” I'm walking~”であり、ここでtheという定冠詞を用いて雨を具体化しているのです。
英文法の話ですが、定冠詞theの意味はidentification、即ち「特定の事物を共通に理解出来る」にあります。
主人公達に降り注いでいる雨とは理不尽でどうしようもなく、しかし同時に美しいこの世界で起こる現実の試練です。
ここで具体化することによって聞き手に雨が何なのかを想像させ、次への興味を喚起させる役割を果たしています。
冒頭で示された「終わらない雨」の中身がここで具体化されることで、歌の物語は次の段階へ進むのです。