2ndアルバム『死にながら生きたい』
「死生観」と「矛盾」をテーマにした作品集
2019年も早々に焚吐(たくと)が衝撃的な作品を完成させました。
それは自身の22歳の誕生日である2月20日に発表された『死にながら生きたい』です。
アルバムタイトルからも察することができる通り今作には2つの重要なテーマが存在します。
それは「死生観」と「矛盾」です。
焚吐の思春期の記憶がインスピレーションとなったであろう13曲。
そこに並ぶのは『死、予約します』など「死」を連想させる数多くのタイトル...。
そのことからも物議を醸しだしそうな刺激的な作品に仕上がっています。
しかし作品全体を通して描かれているのは「それでも生きたい」という希望です。
前作『呪いが解けた日』で呪縛から解放された焚吐。
より自由な発想で綴られた楽曲たちは悩みを抱えつつ生きている人々の道標となることでしょう。
溢れ出す「闇」
カメラ目線の焚吐が机に突っ伏しているデザインは初回限定盤のアートワークです。
教室内で虚ろな表情を浮かべる焚吐からは「闇」が溢れ出しています。
血のように滴り落ちる闇。
そして煙のように舞い上がる闇は『死にながら生きたい』という文字を形作っています。
今回ピックアップするのは衝撃的なアルバムの3曲目に収録された『見切り発車』です。
どこかで見たことのあるタッチ、『見切り発車』のMV制作は?
イラストレーター、映像作家の藤瀬みず制作のMV
色鮮やかな色彩とモノクロの主人公の対比が不穏な空気を醸す『見切り発車』のMV。
少年時代の焚吐を表現したであろうアニメーションとテクニカルなフォント使い。
どこか既視感を感じます。
実は『見切り発車』のMVを制作したのはイラストレーター・映像作家の藤瀬みずです。
近作ではぼくのりりっくぼうよみの『僕はもういない』のMVを制作したことでも話題になりました。
繊細なタッチで描かれる人物、歌詞とリンクしたテクニカルなアニメーション。
藤瀬みずは『見切り発車』の世界感を実に見事に表現してくれました。
今後要注目の映像クリエイターです。
焚吐の少年時代を投影した主人公
引き裂かれたノート
2000年代初頭 都内某所に生まれ 穏やかな家庭で育って 庭に柴犬
クラスメイトは良き友でしかねぇ …んなことはそうそうねぇんだって
突き付ける朝日
出典: 見切り発車/作詞:焚吐 作曲:焚吐
様々な構図が目まぐるしく展開される『見切り発車』のMV。
全てが緻密に計算された映像作品であることが分かります。
そこで個別の構図ごとにストーリーを捉えてゆこうと思います。
最初に目に付くのは藤瀬みずの描いた男の子のイラストレーションです。
これは明らかに学生時代の焚吐をモチーフにしていることが推察されます。
物語の冒頭、少年は友人とにこやかに談笑し限りある学生時代を謳歌している様子。
しかし少年にとっての楽しい日々が長く続かなかったことが明かされます。
笑顔を浮かべる少年のイラストが描かれたノート。
それは真っ二つに引き裂かれてしまうのです。
少年時代の焚吐に実際に起きた出来事、すなわち友人からの裏切りを想起させます。
恐怖の象徴である学校
今日の明日が昨日だったり 何したってイレギュラーばかり
プロットも出来ちゃいないのに駆け出した夢
ふいに涙が出てしまったり かと思えば堪えてみたり
下書きも出来ちゃいないのに取り掛かった本番
破いて丸めて また開いて 一体何の意味があるの?
たとえ意味なんてなくっても 進め
出典: 見切り発車/作詞:焚吐 作曲:焚吐
MVのイラストが焚吐に酷似していること。
学生時代の絶望を描いた世界観から焚吐の自伝的要素を感じてしまう『見切り発車』。
そのテーマは『死にながら生きたい』そのものです。
友人からの裏切り、イジメにより生きることに意味を見出せなくなった少年。
マスクをすることで人間関係への恐怖に耐え、ただ立ち尽くしています。
まるで魂が抜けてしまったかのように...。
イジメ加害者であるクラスメイトの顔はミケランジェロのダビデ像のように変化します。
もはやクラスメイトや学校という存在は少年にとって恐怖の対象でしかないのです。