聴き手の1人だった彼が
全ての始まり
「音楽の切っ掛けは何だっけ。
父の持つレコードだったかな。
音を聞くことは気持ちが良い。
聞くだけなら努力もいらない。
出典: 盗作/作詞:n-buna 作曲:n-buna
唐突にカッコから始まる「盗作」。
主人公が自分の気持ちを吐露し、その罪について振り返っているようにも感じられます。
この楽曲が作られている時、既に盗作の事実は世に広まっているのでしょう。
多くの人から言及されて初めて、その胸の内を明かし始めるのです。
昔、ある1つの楽曲が主人公の人生をガラリと変えます。
それまで歩もうとしていた道を諦め、音楽の道へと進むことになった楽曲……。
音楽は人を励ますこともあれば、時に人を傷つけることもある影響力の大きいものです。
そんな「運命」ともいえる楽曲に出会ったその時から、主人公の「盗作」は始まっていたのかもしれません。
最初はただ音楽に触れ、耳から入ってくるその音に酔いしれていただけの主人公。
音楽を作る難しさや楽しさは、この時まだ知る由もありません。
ただ一般人と同じように、純粋に音楽を楽しんでいたのです。
心にぽっかりと空いた穴
前置きはいいから話そう。
ある時、思い付いたんだ。
この歌が僕の物になれば、この穴は埋まるだろうか。
だから、僕は盗んだ。」
出典: 盗作/作詞:n-buna 作曲:n-buna
心打たれる楽曲を聴いているうちに、彼の中には「物足りなさ」が芽生えることになります。
何度繰り返し聴いても、最初に得られたような感動が心を埋め尽くすことはありません。
心にぽっかりと穴が空いたように感じられ、「足りない何か」を追い求めるようになった主人公。
あのメロディーに心動かされた瞬間を、ただもう1度体験したいと願うのです。
しかし、回数を重ねても、シチュエーションを変えても、同じ感情を得ることはできませんでした。
どうしても我慢できない主人公は、ある時画期的なアイディアを思いつきます。
「この歌をベースに、自分の伝えたいことを織り交ぜた楽曲を作ろう」
そう、これが彼の「盗作」の始まりです。
自分の作った楽曲が世に広まる喜びを、あの頃の感動の代わりにしようと考えたのです。
美しい景色を求めて
嗚呼、まだ足りない。全部足りない。
何一つも満たされない。
このまま一人じゃあ僕は生きられない。
もっと知りたい。愛を知りたい。
この心を満たすくらい美しいものを知りたい。
出典: 盗作/作詞:n-buna 作曲:n-buna
過去を振り返った主人公は、改めて今の気持ちについて考えます。
世に広まった「盗作」は、知らない人はいないほどの名作として語られることとなりました。
これでやっと、自分の追い求めていた感動を手にすることができる……。
そう思っていたのも束の間、そこには感動などこれっぽっちもないことに気がつくのです。
長い間待ち望んでいたあの感情に、ようやく出会うことができると息巻いていた主人公。
事実を知った今、未来への希望が断たれてしまったかのように気持ちが荒ぶり始めます。
主人公が求めていたもの……それは、誰もが息を飲むほどの「美しさ」でした。
どんなことをしてでも欲しいもの
他人の功績を盗んで出来た「今」
「ある時に、街を流れる歌が僕の曲だってことに気が付いた。
売れたなんて当たり前さ、
名作を盗んだものだからさぁ!
出典: 盗作/作詞:n-buna 作曲:n-buna
外に出れば、自分の曲がBGMとして流れる素晴らしい世界。
テレビではひっきりなしに曲が流れ、人気ランキングでも常に上位を占めている……。
アーティストが目指すべき「高み」に立った主人公は、その光景にわずかな喜びを感じます。
しかし、まっさらなところから自分で作り上げた楽曲であれば、その喜びは倍以上のものだったでしょう。
「所詮は他人の功績」
そう思えば思うほどに、今手にしている「人気」が嘘のように思えてしまうのです。
そして彼は、どんどんと現状に満足できなくなってしまい……。
思い切って、覚悟を決めてしたはずの「盗作」の重みが、さらに軽いものへと変わっていってしまうのです。