電車の窓から
先ほどもご紹介したとおり、この曲は2011年に発売されたメジャーデビューアルバム「スーパースター」と2016年に発売されたベストアルバム「アンコール」に収録されています。
ベストアルバムに収録された曲たちを見てみると、楽曲32曲中大半がシングル曲から構成されています。
そんな中でベストアルバムに選ばれて収録されたというのはback numberにとって、そしてボーカル清水にとって思い入れのある曲だからでしょうか。
実際、ベストアルバムへ収録する曲を選ぶ基準として清水は「back numberがどんなバンドかわかり、かつどんなバンドでありたいか、を基準に選曲にした。」と語っています。
その基準で考えるとこの「電車の窓から」は「back numberがどんなバンドか」を表す楽曲なのではないでしょうか。
ここからback numberを知る人にも、すでにback numberにハマってしまった人にも聞いてほしい1曲です。
夢が現実になる瞬間の「不安」を歌った歌
ざくっと説明しますと、この曲は追い続けた夢をやっと叶える、そんな瞬間を歌った歌です。
さぞかし期待に満ち溢れた曲なんだろうと思ったら大間違い。
夢が叶うことを不安に思ったり、変わってしまった自分にしっくりと来ないような、そんなもやっとした気持ちが歌われた歌です。
実際、清水自身もこの曲について「憧れていた場所のそばまで近づいていても、どこかで迷って不安になる瞬間をちゃんと描写したかった。」と語っています。
そんな想いで電車に揺られている時にメロディと歌詞が浮かんできたという、まさにback numberのターニングポイントを切り取った1曲なのです。
銀色の電車は存在する
この曲に歌われる車窓の景色はメンバーの故郷群馬と東京を結ぶ「東武伊勢崎線」。
普段は車での移動が多かった清水が、東京との行き来で乗っていた電車だったのでしょう。
電車での往来が増えるごとに、夢は近づくけれど自分自身も変わっていってしまうような気がする。
嬉しいけれどちょっと切ない、そんな旅路だったのだと思います。
歌詞に描かれる物語
過ぎていく景色と、変わっていく自分
生まれて育った街の景色を
— ざきちゃん - party 新木場 (@b_b_bknb777) 2015年6月20日
窓の外に映しながら
銀色の電車は通り過ぎてく
僕を乗せて通り過ぎてゆく
何にも知らずにただ笑ってた
あの頃には戻れないけど
もらった言葉と知恵を繋いで
今日もちゃんと笑えてるはず
電車の窓から / back number
車社会で育ったという清水。
電車はもともと「乗る」ものではなく「眺める」ものだったのかもしれません。
そんな僕を乗せて電車が見慣れた街を通り過ぎていきます。
電車に乗るようになった僕はあの頃とは変わってしまったと自覚しています。
「もらった言葉と知恵を繋いで」の一節から、変わってしまったのは自分の意志ではなく、仕方がなく変わるしかなかった、といった後悔も含まれているように感じます。
街は変わらない。
だけど僕は変わってしまった。
歌を歌うことが好きだったのに、言葉を紡ぎ出すことが好きだったのに。
いつしか「純粋」に歌を歌うのではなく、「売れる」ために表現することを求められてしまったのかもしれません。
それでも僕は笑っていないといけない。
夢が仕事になってしまった。
そんな自分がこれから進む「夢の先」に不安や、後戻りできない恐怖を感じたのかもしれません。
「僕はこのまま突き進んでいいのだろうか」そんな思いが涙となって溢れます。
「あの頃」から変わった僕
どうして売れないんだろう。
どうしてあいつが売れるんだろう。
そんな愚痴はバンドマンには付き物でしょう。
そうやって愚痴を言っていた自分たちが、すべてを投げ出す覚悟で手にした切符。
片道切符だからこそ、その切符を使うのに勇気がいるのです。
行ったらもう後戻りはできない。
全てを投げ出して、これからの成功を夢見て自分を奮い立たせてきたのに、ふとした瞬間に「不安」が忍び込み、弱い自分が涙を流してしまうのです。
夢を叶えた人にしかわからない世界
…と、とても弱々しい解説になってしまいました。
だけど、この「不安」はきっと夢を叶えた人にしかわからないものなんです。
自分の実力で手に入れた成功だからこそ、これでよかったんだろうか、変わってしまったんじゃないだろうか、と悩むのです。
お金や他力本願で叶えた夢は自分を変える間もなく成功へと連れて行ってくれます。
だけど一歩一歩、自分の足で夢見た場所へと近づいたからこそ、その過程で考え方ややり方、想いなどが変わるのです。
それを「成長」と呼ぶこともできるし、「あいつは変わった」と言われることもあるでしょう。
そんな想いをまるっと閉じ込めた、「成功前夜」の歌。
この瞬間にしか生まれなかった歌かもしれませんし、そんな想いを包み隠さず見せてくれたからこそ出来た曲かもしれません。