何も見えない
ドーナツの穴みたいにさ
穴を穴だけ切り取れないように
あなたが本当にあること
決して証明できはしないんだな
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
MVにはドーナツの穴から向こうを見通そうとする女の子。
ドーナツの穴は生地が輪郭を作っているから穴としてあるので、穴だけ切り取ろうと思っても輪郭がなくなってしまえば穴もなかったことになってしまいます。
心の中から抜け落ちてしまった「あなた」を取り出してほらここにあるでしょうと見せようとしてもわかりません。
「僕」には「あなた」の顔が思い浮かぶだけで、何を話したのかも何をしていたのかもわからないのですから。
どんなに目をこらしても見つけられないのです。
もう一回何回やったって
思い出すのはその顔だ
今夜も毛布とベッドの
隙間に体を挟み込んでは
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
「毛布とベッドの隙間に体を挟み込んで」と言って寝るという表現は使われていません。
思い出される「その顔」に囚われて、また眠れない夜を過ごすのでしょう。
ドーナツの穴から覗く女の子の目は、「顔」しかわからないものの正体を掴もうとしているようにも思えます。
死なない想いがあるとするなら
それで僕らは安心なのか
過ぎたことは望まないから
確かに埋まる形をくれよ
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
ずっと残るものがあれば安心できるのでしょうか。
浪費してしまった時間を取り戻したいとは言わないから、喪失感を埋めてくれるものを欲します。
正論も理想もいらない、ただひとつ望むものしかいらないと言うように虚空を見つめ耳を塞いでいます。
失った感情ばっか数えていたら
あなたがくれた声もいつか
忘れてしまった
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
再び顔にペイントした女の子が出てきます。
いつの間にかなくしていた感情があったことに気づいてそれに気を取られていたら「あなた」にもらった声も忘れてしまいました。
自分の顔や感情をごまかし続けた結果のそれは、自業自得なのでしょうか。
バイバイもう
永遠に会えないね
何故かそんな気がするんだ
そう思えてしまったんだ
涙がでるんだ
どうしようもないまんま
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
下へ向かって手を伸ばす女の子は何を掴もうとしているのでしょう。
「どうしようもないまんま」の後に握りしめた手は、決別でしょうか。諦念でしょうか。
この胸に空いた 穴が今
あなたを確かめるただ一つの証明
それでも僕は 虚しくて
心が千切れそうだ どうしようもないまんま
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
自分の胸にある喪失感だけが「あなた」が存在したことを確かめる材料となります。
けれどそれを認識したところで喪失感がぬぐえるはずもなく、苦しい現状が変わることもありません。
MVでは「それでも僕は虚しくて」から女の子たちの顔が塗りつぶされています。
「心が千切れそう」なほどの想いに囚われて、どんな顔をしているのか彼女たち自身でさえわからなくなっているのかもしれません。
嘆きながらも心を決める
簡単な感情ばっか数えていたら
あなたがくれた体温まで 忘れてしまった
バイバイもう永遠に会えないね
出典: ドーナツホール/作詞:HACHI 作曲:HACHI
つらい感情から目を背けて、自身を飾り付けて自分や周囲をごまかし続けてきました。
人の目をあざむいてきたペイントは自分の目さえもあざむいてしまったのでしょうか。
顔にペイントをした女の子たちは目を閉じて、ありのままを受け入れようとしているようにも見えます。
もうしかたがないんだと諦めて、諦めようとしてそれでも嘆かずにいられません。
「あなた」にもらった大切なものも何もかも忘れてしまったことを悔いているのでしょうか、もう本当にどうにもならなくなることを嘆いているのでしょうか。