中毒性のある楽曲
米津玄師【死神】
2021年6月16日にリリースされた米津玄師のシングル【Pale Blue】。
そこに収録されているのが【死神】です。
この楽曲のモチーフとなっているのが古典落語の「死神」。
「思いのまま、好きなように作った」という同曲は言葉通りユーモア溢れる1曲となっています。
7月5日付けのオリコンチャート(シングルランキング)では2位を獲得しました。
その際の1位は【Pale Blue】、3位に【ゆめうつつ】。
ランキングトップ3を米津玄師さんの楽曲で独占という史上初の快挙達成となりました。
落語「死神」のストーリーと米津玄師の世界観が見事に融合した中毒性の高い1曲をご紹介します。
MV
【死神】のMVは2021年6月24日に公開となりました。
同日にInstagram、Tik Tokでも公開。
公開から12日後に再生回数1,000万回を突破するという注目の高い作品となっています。
MV公開直後のTwitterでトレンド入りしたワードは「米津玄師」「Kenshi Yonezu」「Shinigami」。
カップリング曲とは思えないほどの話題となったことが窺えます。
同MVの監督を務めたのは永戸鉄也氏。演技指導は柳亭左龍氏です。
【死神】は細かいところまでこだわり抜かれたMVになっています。
落語の細かい所作など全て自身で演じ切る米津さんの徹底ぶりが窺えるでしょう。
着物姿の米津さんの醸し出す色気に、つい見惚れてしまう人も多いようです。
5人の観客にフィーチャーしているサイドムービーも必見です。
古典落語「死神」
歌詞をご紹介する前に、同曲のモチーフである古典落語「死神」を軽くご紹介します。
「死神」はグリム童話の「死神の名付け親」を翻案したものです。
翻案したのは江戸の幕末頃から明治にかけて活躍した、初代三遊亭圓朝とされています。
登場人物は借金まみれで妻にも見捨てられた男と死神。
死神は男の味方なのか、「金儲けの方法を教える」と近寄ってくるのです。
死神の言う通りにしてお金を手に入れた男の生活は一変してしまいます。
なんとお金に眩んだ男はついに死神を騙してしまうのです。
怒った死神は、男と病で死にそうだった人の寿命を交換してしまいます。
謝り「寿命を延ばしてほしい」と懇願する男に死神が一言囁くシーンで終了です。
「死神」は“演者”によってラストの内容が変わるところも魅力のひとつといえるでしょう。
男と死神
何もかも期待していない
くだらねえ いつになりゃ終わる?
なんか死にてえ気持ちで ブラブラブラ
残念 手前じゃ所在ねえ
アジャラカモクレン テケレッツのパー
出典: 死神/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
男の、「自分に価値なんかない」と自分の人生を嘆いている様子から楽曲は始まります。
貧乏でこれといった才能もない男は、最愛の妻からも「死んでしまえ」と言われる始末。
どう頑張っても結果は出ない、何をしても面白くないという状況に人生を諦めてしまっているようです。
こんなくだらない人生をいつまで続ければいいのかと嘆いている様子が読み取れます。
3行目の「所在ない」とは「何もすることがない」ということ。
何もすることのない日々の中、ある日男の前に“死神”が現れます。
最後の行の呪文のような言葉こそまさに“死神を追い払うための呪文”です。
男は死神から、この呪文を上手く利用すれば“金儲け”ができると教わりました。
どうしようもない人間
うぜえ じゃらくれたタコが
やってらんねえ 与太吹き ブラブラブラ
悪銭 抱えどこへ行く
アジャラカモクレン テケレッツのパー
出典: 死神/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
最初にここで使われている、日常でなかなか使わない言葉の意味を確認していきましょう。
1行目の「じゃらくれた」は「ふざけた」という意味に読み取れます。
じゃらくれたは米津さん出身の徳島県の方言です。
「与太吹き」とは「与太を飛ばす」といいい、「ふざけてくだらないことを言う」という意味。
3行目でいう“悪銭”は男が死神の能力を利用して得たお金のことでしょう。
これらを総括して歌詞の意味を読み取っていくと、この節は“死神サイド”の意だということが分かります。
教えた能力を利用して得たお金で生活が一変していく男。
どんどん調子に乗っていく様を呆れながらも面白がって見ている死神の様子が窺えるでしょう。