彼女は彼に何か言ってほしくて責め続けます。
しかし彼は、彼女が泣いていない事に違和感を抱きます。
「普段はすぐ泣くのに。実はそんなに傷ついてないのかも…。」
そんな疑いさえ抱いていました。
「もし彼女がここで泣きながら訴えてきたのなら、心が動かされたのかな?」
「もしかして泣かないのは、彼女も、もう終わりという事をわかっているのかも。」
ぼんやりと考えながら石のように動じない彼。
冷静なまま、もう終わりだから話し合っても仕方がないと思ったのでしょう。
そのまま席を立ち去ろうとします。
このシーンだけ見ると、ひどい彼…と思わずにはいられません。
しかし彼から言わせれば、これは「運命」なのです。
過去に愛はあった
立ち上がる僕の手を掴んで
その拍子にグラスが落ちた
たった数秒が長すぎて
たった一言も言えなくて
出典: 運命/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
立ち去ろうとした彼の腕をつかむ彼女。
その瞬間、グラスが床に落ちてしまいます。
バラまかれた破片と水の始末に追われる彼女。
そこで二人の別れ話は自然と終わりになったのでした。
ただその捕まれた手の感触で、過去には触れるだけでドキドキした事を思い出します。
今では、触れられるだけでも辛く感じる…。
そのギャップがより悟りを確信に近づけます。
情熱的な一面も
指に触れるだけで
胸が高鳴ってた
そんな二人はいつが最後だったろう
今は触れるだけで
痛むほどに酷く腫れていた
そして僕はそっと目を逸らして
出典: 運命/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
過去の回想は、この楽曲の中で唯一ピュアさがある箇所でしょう。
もともと彼は、このように淡泊に彼女を客観視する人ではなかった。
確かに昔はとてつもなく大事な存在であった彼女。
けれども今では自然に関係が変わってしまった。
わざと冷たくしているわけではない。
自分でも知らないうちに気持ちが変わってしまったんだ。
という、なんともピュアで気持ちに正直な彼という事がわかります。
しかし、その気持ちもすでに過去の記憶として思い出しただけ。
蘇る事はなく、現実に戻ります。
わざと嫌われようとする彼
きっと終わりだった
ずっと分かっていた
ついにエンドロールだった
僕は店を出ると
もう振り返るはずもなかった
すぐに泣く君が嫌いだった
出典: 運命/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
彼女が嫌いだった彼の悪い癖。それは都合の悪い事を避ける事。
彼女が怒るだろうとわかっていながらも目を逸らし、その場を去ります。
一度も振り返る事なく店を出ます。
振り向かなかったのは、すぐに泣く彼女を見たくなかったから。
きっと彼女は泣いていたのでしょう。
そして、店を出た今は物語の最後のエンドロールだと感じていたから。
もう終わりなのに、途中に戻って話をほじくり返すような事はしたくない。
彼にとってはワンシーン
「エンドロール」と呼んでいる事から、彼は自分の事ですら客観視しているのではないでしょうか。
2人の別れの話し合いは、ストーリー中の1つのエピソードに過ぎません。
会って、別れて、店を出る。「今がストーリーの終わり」と感じたようです。
決して自分の感情に流される事はなく、まるで物語を追っているような彼。
ちょっと不思議な男性だと感じました。
きっとミステリアスな雰囲気と魅力を持っているのでしょう。
一番大きな気がかり
最後の最後で本当はね 聞きたかったよ
硝子の破片を拾いながら
床を拭く君の手に目を疑ってた
どうして指輪、外してなかったの?
出典: 運命/作詞:椎木知仁 作曲:椎木知仁
こんな淡々とした彼ですら、少し気になった事があります。
彼女が、プレゼントした指輪を左手にはめたままだった事。
何で外してなかったの?
気になったけど、そこも気が付かないふりをしました。
なぜかって、そういう「運命」だから。
そう、この楽曲は、男性が別れを悟ったという話。
しかもその別れは「運命」だからと、抵抗せずに受け入れた事。
ずっと冷静だったのも、黙っていたのも、抗えない「運命」だったから。